勝敗なき無限大レース / 君はエンマコオロギを見たか

Title : リフ・レインに傘もなく

 

 

この世とあの世を繋ぐ在来線で有名な天女堂 (蕪)系列の地獄堂から、今月発売された4次元操作スゴロク “ 無限大 ” が業界関係者の間で物議をかもしている。

追う側と追われる側に最終ゴールが設けられておらず、ひとたびスゴロクが始まったが最後、このレースは永遠無限に続くと言う点が最大の問題となった。

「第一、くたびれちまうってんですよぅ!。豆腐屋だから朝早いですしねッ」

しかし地獄では営業する者など一人もおらず、この意見は早急に解決。

「ゴールがなければ逃げ切れたかどうかも分からない。それじゃゲームになりませんよね?。ゲーマーとしてはやる気ゼロです」

この大半を占める意見に対し、エンマ大王は今朝未明に記者会見をポンズの川で行った。爪欠けた報道陣は約9万人。そのうち87人はピッツァ賞受賞者だった。

「延々と逃げ続けるということは絶対に捕まらないということ。つまり傷つかないで済む。誰も手出しが出来ない。つまりは悲喜子守り。と同じ。勝者と敗者が決まらない以上、次へのステップに備えてのレッスンも検証も無用なわけで、いつまでも子供のままでいたい、成長したくない人達には最適な遊戯だと自負しております」

「だとしても、楽しめる要素がないですよねぇ。有るんですか。どこですか」

「永久に変化しない状況のキープ。まさにこの1点に集約されるでしょう。時の概念さえ超えるのです」

「それはあの世の話でしょう。このスゴロクはこの世でも遊べるものでしたね確か」

「この世の地獄の方が恐いですよ。いつか滅びる生身の人間が変化を拒んでいるんですから。これで遊べばやがて気づくでしょう。変化なき状況の空しさに」

「イジメを受けるより虚しさを味わう方が、余程本人は楽なのでは?」

「全国津々浦々巡って、全ての場所でイジメに会い、優しい人と誰1人出会わなかったとでもいうのか」

「チョチョット、目が恐いんですけど。冷静にお願いしますよ」

「自分を自分の中に閉じ込めるのは自分だ。相手ではない。追いかけられ続けて隠れられる場所を探せ。冷たい人間がそこを追い出すだろう。そしてまた逃げる。追われる。隠れられる場所をまた見つける。

 

この世でそれを続ければ、ある日突然出会う。誰かに。追い出さない誰かに。

何故って、この世は地獄ではないからだ。