自閉症のカーテンが開く時 / 自分を美しく飾るはずの十代に捧ぐ

 

 

心の時代。

あえてそう言わなければならない程の問題にまで膨れ上がってしまった。日本の現状は先進国の中でも特筆すべき惨状だという。それを承知で、ボクらは声なき叫びに物悲しくカーテンを引いいてしまう。それを冷たい社会とする。それを冷たい人々とする。親族にも、友人知人にも冷たく拒絶される冷たい世の中とする。成すすべがないとする。仮に。

孤立無援な誰か。行き場のない閉塞感。追い詰められ後がない絶望感。

可愛い顔をした女子中学生。モテるだろうネと微笑もうとして血の気が失せる。彼女の手首に包帯。ただの怪我だと思う人も居る。手首と包帯の間にどうして野球ボールを入れているの?。

それは野球ボールではない。肉腫のように膨れ上がってしまった彼女の手首の皮と肉だ。リストカットの回数が3ケタを超えている証明。自分を美しく飾る事にだけ心血注ぐ美しい季節、十代のはずなのに。

 

壊れてしまう。あとほんの少しで完全に壊れてしまう。

だから何ですか。何か?。

 

実際に冷たい人は大勢いる。ボクは違うなど到底言えない。ただ、冷たい人もやさしい人も、壊れかけてゆく人を救う術を知らない。どうしたらよいか本当に分からない。自分で自分を傷つける心理を理解出来ない。自傷行為って言うんだってね。書いてあった。知ってる知ってる、TVで観た。拒食症、過食症、色々な名称の病気がある。沢山ある。どんなものかオボロゲに知っているものもあれば初耳なものもある。今後も色々、新たな病名が次々に登場する気配がする。

どの病気もそのほとんどが心の病。薬で症状を抑制する。完治は無い。

昔からあるアル中、アルコール依存症。酒害と呼ばれる。酒害となり意を決して断酒会に入りアルコールを絶つ。強靭な鋼の意志でそれを貫く。愛する人々を絶望の闇に突き落とした自責の念がアルコールとの闘いに負けない日々を過ごさせる。

全ての酒を断ち、気が付けば34年の歳月が流れていたという。彼はある日、人づてに愛する妻の死を聞く。34年会っていない妻の顔がどうしても思い出せない。

彼は泣き崩れ、顔を失くし、声を失くし、心が張り裂けるほど泣きに泣く。愛するヒト、自分と添い遂げる事に頷いたヒト、その彼女を殴り倒した。何度も何度も殴り倒した日々。酔いが冷めれば後悔する。酔いが冷める時など一切なくなった時、彼はヒトではなくなった。最後の骨のひとかけらさえ、最早ヒトではなくなった。愛するヒトを世界で一番傷つけて弄び得々とする化け物になった。鬼でさえ近寄らない化け物になった。

そして今、妻の顔を思い出そうと彼は酒をヒトクチだけ飲んだ。誰かがその瞬間を待っていた。凄まじいアルコール依存症の飢餓感がたちまち彼を飲み込む。たったひとくちで34年の苦労が粉々に砕け散った。死んだ妻が、自分の中に恐ろしい化け物を放り込みに黄泉の国からやって来たのだ。

こんな実話はいくらでもある。カーテンを開ければ見える。

 

 

◆写真タイトル / 影絵

 

 

 

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空中分解システム(17) / 伝染症候群 / その弁当、愛情を食べているのか憎しみを食べているのか

 

 

 

アスペルガー、自閉症、或いはその中間、強迫性障害等が半感染が如き擬似症状を見せることがあると書いたが、心の病がウイルス感染するなどといった馬鹿げた話ではない。

類は類を呼ぶ。というコトワザが在る。朱に交われば赤くなる、というのも。どちらにも中らない。果たしてこれはフォロワーの模倣か内在してきた症状が偶然誘発されたものなのか。

執拗なまでに母親の手料理に固執するS。Sの母親は特筆すべき働き者で、彼が学校から戻ってくると自宅へ通ずる居酒屋カウンター上には、いつもずらりと母親特性の料理小鉢が所狭しと並べられていたそうだ。美味しそうな種々雑多なオカズの匂いに目を輝かせるS少年。

「何か味見させて!」「ダメだよ、これはお店用なんだから。アンタのは冷蔵庫に入ってるからソレ食べな」

Sの母親は彼が中学時に病で他界。その後、彼は料理嫌いの叔母宅に引き取られ不味い食事を耐え忍んだという。彼はアスペルガーだったので業務関係は抜きん出て優秀だったものの、上司に疎んじられ海外転属となった。日本食とは似ても似つかぬ味気ないアメリカでの食生活。母親の手料理に異常固執する彼の病状は一気に加速した。彼は本当にアスペルガーなのだろうか。それとも強迫性障害なのか…。或いは、ただ手料理を母親の象徴とし、思い出を食べることに異常固執する人に変貌しただけなのだろうか。

本社配属となりSはWと出会う。2人は懐石料理店でデートを重ねるが、話題のほとんどはSからの一方的な質問ばかりだった。彼は専務の妻の手料理の話に関心を示し、Wの母親の手料理内容や料理中の様子、またWの手料理について執拗に聞きたがった。疲れて帰った時、優しい手料理が待っていると心が癒されるよね、と語るSにWは感動した。出来ない手料理も出来るが如く匂わせた。料理教室に通って、追々手料理を出してゆくつもりだった。

Sは、Wとの間にもうけた一人息子Tの親権を破棄、5年の結婚生活にピリオド打ち出て行った。

Wは元の会社に復帰しTを育てる。Tは小学5年生となり、一流中学に入学すべく名門塾に通い始めた。夕飯を共に出来ない母親達は我が子に手作り弁当を毎日持たせ、子らは塾で共に夕飯の弁当を食べるのだという。

夕刻6時までに飛んで帰り、Tに手作り弁当を持たせ送り出すW。全ての弁当具材は前日に仕込んでおく。どのお母さん達もそうだろう。だが、Wの作る弁当は毛色が違っていた。周りの子達が驚いて羨ましがる程のオカズの多さ。ご飯とは別にオカズだけの箱が2つも。その種類は最低十種、むろん全てWの手作り。

「自分のもTクンみたいにオカズを沢山入れてくれって子供がうるさくって困ります。まぁ~、よくそんな暇ありますね」

お母さん達にイヤミを言われてもWは一切そのスタンスを変えなかった。手料理制作に忙殺される母親を見て、息子は必要ないから普通にしてよと何度も懇願したがWは頑として聞き入れなかった。

Wは忙殺の日々、遂に壊れた。長期入院となりTは塾通い続行を断念。手料理を嫌う子にでもなったのだろうか、コンビニで買う夕飯は決して弁当ではなく必ずパンだったという。

 

 

以上、Wとの質疑応答によるものから抜粋。Wの本心は伏す。

 

 

 

 

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