ラッパッパ~、ルンパッパ~ / 時代はムード音楽からリズム音楽へ

Title : 躍り出た切り札

 

 

嘘発見機が発明され世界中が周知するに至ると人々は驚嘆の声を上げた。そんなものが機械で分かるのか、と。時はアナログ世界だった。

今はデジタル化社会なので、何が出ようと何が来ようと誰も一向に驚かなくなった。大半の人々はデジタル進化を歓迎する。不思議で不可解、便利で面白さ満載な世界だからだ。

アナログ時代、世界中で歌われる歌の歌詞は喜怒哀楽を表現したものがほとんどだった。特にやさしさ、おもいやり、いつくしみ、に代表される愛がテーマだった。それらの歌詞を出来る限り全開表現するためのメロディラインが有り、更にそれに魅力的なエッセンスを加える歌い手の存在があった。歌手はアレンジを聴きながら一歩一歩階段を上ってゆく。階段は名うてのミュージシャン達一人一人が次々と数秒刻みで作り上げてゆき、歌い手の脚を一瞬たりとも止めさせることがない。

時代は変わった。価値観自体も大きく変貌を遂げた。

アメリカのラップは前述の歌の概念を根底からくつがえした。精神世界を表現せず、今、目の前を通り過ぎる事柄を一瞬にして取り込み自分の中でソシャクして次々に外界へとオッポリ投げる。

観客は花嫁が投げたブーケを手にしようとする独身女性さながらソシャクのカミクズに両手を差し出し投げキッスする。

ラップはマイノリティーが生み出した最強の武器といっていい。

生まれながらの天分、すばらしい歌唱力。ラップ・ミュージックはそれを必要としない。オクターブがどうのだとか、ここで一気に転調して、だとかの音楽的お約束ゴトに一切縛られない。

ラッパーに求められるものは “ 今 ” 。昨日歌われた歌詞は今日もう古い。今日再び歌われるなら歌詞は自由自在に即興変化する。

ジャズの楽器によるフリー・セッションを自身のソウルで、心拍で、性感帯の血流アップダウンでつまびいているのだ。

SEXに関する歌詞が多く、ラップには回りくどさが許されない。ストレートで大都会ジャングル。ゴールドの装飾品ジャラつかせサバンナのド真ん中で吠えている。

銃やヤクの力でストリートを牛耳り生き残れても、追手をかわし切れず自由を失う。再び自由を手に出来るのは死ぬ時。

ラップはナイフやドラッグを必要としない。そんなものを手に入れる金が、元手がなくても自分が歌いさえすればいいのだ。自分のハートがスピリッツがソウルが、ただ在ればいいのだ。

自分そのものが、手ぶらの無一文の無学な者が、前科者の有色人種の小僧が世界を席巻出来るのだ。

ラップが人を引き寄せ、共感を生み歌うソイツを見上げて希望を見出す。下品と呼ばれ永遠に完成しない不良品とラップをののしる者達の声はいつしかかき消されてしまった。

ボクはラップ・ミュージックに関心も興味もない。自分の住む世界に全くリンクせず、ムーディーな心地よさが皆無だからだ。

だがしかし、声を大にして言いたい。

ラップ・ミュージックは音楽だ。刻一刻と変わり続けるネット世界を一人の人間がプロデュースしているようなものだ。

ラップを完成させた人々にスタンディング・オベーションし、グラミーの最終報告を待つ。