スタンばる右腕 / 女性を知ろう / 空中静止するパスタ

 

 

 

“ 男性と女性は違う生き物である ”。巷でよく耳にする言葉。ボクがそのことを改めて思い知ったのは、とあるパスタ屋での光景。

好物のボロネーズを食べ終え、コーヒーを飲みながらスマホをいじっていたボクは、華やいだ若い女性同士の会話に何気なく顔を上げた。

ボクの正面テーブル、OLさんとおぼしき2人が、渓流を早い速度で流されてゆく鈴の様なデュエットで、リンチャチャリンと会話に夢中。

ボクの眼は髪の長い女性の右腕に釘付けとなった。

彼女は、パスタが美しく巻き採られたフォークを右手に持ち、それを自身の口の前にかざして今にも食べようという仕草。しかし5~6秒さりげなく見ていたが、その状態は硬直化したまま。

いかん!、これ以上見ていると不審者に思われる。ボクは再びスマホに目を落とし、ニュース記事の続きを…。30秒は経っただろうか。ボクはさりげなさ装い顔を上げる。

まだ食べていない!。さあ食べるわよ、口にパスタを入れるわよ、のスタンバイのまま、パスタ巻かれたフォークを口の前にかざしたまま、話に夢中!

まさか、最初に見た時のままなのだろうか。いやいや、ボクが目を落としている間にソレは食べられ、今僕が見たフォークはその次のものに違いない。

ボクは尚も巧みな泳がせ目、次なる一投をかたず飲んで見守る。1ヒットで満塁逆転サヨナラという緊迫した場面に全身が硬直する思いだ。とっさに腕時計を見やった。彼女のスタンバイ状態が長いことを想定し好奇心が沸いたのだ。

そこから93秒。パスタは何かの祈祷かマジナイの様にかざされたまま、決して彼女の口に入ることはなかった。

パスタにしてみれば、それだけ長きに渡り高見から店内を一望し続けられたのだ。さぞ見分が深まったことだろう。

男同士なら絶対にこんな光景はあり得ない。たちまち相手から「何やってんの?」だの「早く食えッ。気になるッ」と叱責される。

やはりそうか。口の前にフォークかざし続ける彼女の右ヒジはテーブルに付いている。長時間スタンばるには、そのポーズしかない。

自分は早く食べたいのだが話を切れず、しゃべり続けることを余儀なくされた、という風でもない。むしろかざしたフォークの存在を完全に忘れ去っているようにも見える。

男にこんな真似は無理。気の長い男でも無理。暇を持て余して摂る食事でも無理。無理無理無理無理、絶対断じて無理。

などと考えているイトマもなく、彼女はさも楽しそうに相槌を打ちながら、器用にパスタをフォークにクルクル。

アッ!すぐに食べた!!

その瞬間、かつて味わったことのない程のさわやかな春風が、ボクの頬を軽く平手打ちし、きらめく陽光がボクの眼を射抜いた。まぶしさに耐えきれず目を伏せるボク。アア、アア、そうかそうか、そうなのか!

女性は辛抱強い。野郎どもなど敵(かな)いっこない。男なんてセッカチ過ぎてダメだダメだ!。

それにしても、何という美しいフェイントだったのだろう!。一瞬のスキをついた鮮やかな盗塁!。などと考えながら会計を済ませ、ふと入口横のノボリを見ると、

“ 春のパスタフェア ” の文字。

なるほどねぇ。それで春風だったわけね…。それにしてもアノ硬直化…。やっぱり少し、クラッとする。

 

●写真タイトル / 男と女