金太郎伝説 / もうひとつの隠れ秘話 / 改名への手順とは

Title : 勝利のおまじない

つい最近、つい最近、出がらし山のふもとに

金太郎という元気な男の子が

乳母と一緒に暮らしていました。

金太郎は山の仲間達、猿や猪、鹿、熊などと共に毎日全力で遊び回り、

同時に乳母の仕事の助けもしっかり努め、

畑仕事、土間のオオガメの水汲み、絹織のために育てているカイコ達の眼に、

時々懐中電灯の光を当ててまぶしがらせたりすること

も怠らなかったので、乳母には大層重宝され可愛いがられていた。

空澄み渡る五月のある日、仲良しの月の輪グマが

金太郎のところにやってきて、

「金太郎。お前もそろそろ十歳だな。随分立派になったもんだ。

そろそろ男らしい身体造りでも始めたらどうだ。

これから毎日オレ達と相撲を執って

鋼の身体に鍛え上げないか」

「それは良い考えだ月の輪。やろう、やろう、今すぐやろう!」

クマと金太郎が相撲を執る!。たちまち土に書いた土俵線周りには

山の仲間が押すな押すな。ガンバレ!、負けるなよ!、の大騒ぎ。

なんせ、金太郎は山里一の人気者。気はやさしくて力持ち!。

はっけよい、はっけよい!。

サア、ガップリ四つに組んだぞ!さてどうなるか!

と皆が興奮大声援、と同時に

金太郎はアッケなくゴロン。

「どんまいどんまい、金太郎!。まだ小手調べ、ほらほら、

もう1番いっちょ行こう!」と月の輪。

「あたぼうだい!」

ゴロン。ゴロゴロン!。ゴロゴロゴロッ!。

その繰り返しで、金太郎はアッと言う間に0勝37敗。

その日から山の仲間達は、金太郎のことを

銀太郎

と呼ぶようになった。

夜。乳母の差し出すヤマメの塩焼きに手を伸ばしながら銀太郎、

「バッチャン、心配には及ばないさ。いきなりクマとヤったのが無茶だった。

明日は子馬とやる。だから安心して!。また名前が金太郎に戻るから!」

「そうかい?……。ならいいけどねえ…」

翌日、銀太郎は子馬に完敗。0勝28敗。

その日から銀太郎は、山の仲間達から

銅太郎

と呼ばれるようになった。

「銅太郎、もう明日は決してお相撲なんか執っちゃいけないよ!。

明日も負けたらアトがないんだから。ここでやめておけば、

まだしも対面は保てるだろ、ね、もうおやめよ、後生だよ」

「はっはっはっは!、大丈夫なんだよバッチャン、明日はねえ、

猿の奴と執るんだ。アイツはボクより小柄だし、

間違っても負けるわけはないから安心してよ!」

銅太郎の屈託のない笑顔はブザマにも土にまみれた。猿を相手に0勝16敗。

「もうやめなよ銅太郎、オレなんか心苦しいよ。

いとも簡単に転がるお前の姿もう見たくないよ。ここで打ち止め!」

とおろおろ顔の猿。

「何を馬鹿な!、あと一番ッ!」

その日から銅太郎は、山の仲間達に

ニッケル太郎

と呼ばれるようになった。以降、懲りずにというか、躍起になってというか、

ムキになってというか…。

対小鹿戦 0勝21敗。翌日から

アルミニウム太郎。

対ウリンボ(猪の幼児) 0勝6敗。翌日から

プラスチック太郎。

対ムク犬戦 0勝4敗。翌日から

ダンボール太郎。

対リス線 0勝3敗1引き分け。翌日から

紙太郎。

対野鯉戦 0勝56敗。翌日から

太郎。

乳母の企て通り、誰に疑われることもなく金太郎は、

自然な形で改名に成功した。