手紙

Title : 海鳴り

 

 

 

ボクは耳鳴りのする耳で海鳴りを聴きながら、今この手紙を書いている。

あの時、君は遠い眼をして言ったね。ボク達日本人はタコよりイカの刺身を圧倒的に好むのに、どうして引っ張りダコという例えになるんだろうって…。

あれからずいぶん時が経った。けれどボクはいまだにその答えを追い求めている。その旅のさ中、色々な事実に行き当たったりもした。

揺りかごを買っても、それは買い物かごではないってこと、バーゲン会場で誰よりも真っ先に最高の商品を手にしたところで、しょせんそれは先物買いとは呼ばれたりはしないという皮肉。

だってそうじゃないか。砂糖は決してバーゲンの対象になったりはしないのだから…。

花火を逆読みして火花。どちらも散るサダメならそれもいいって、今ではようやく思えるようになったよ。これもみんな君のお蔭だ。火花が飛び、花火は飛ばない。何て奇妙なんだろう。

潮騒の音をこの窓辺で聴きながら、ボクはいまさらながらにハイネックの襟を正せないでいる。まっとうになれないのはボクの性分なのかもしれない。そういえば、さっき廊下で一つのウチワを奪い合っている家族とすれ違ったけど、やっぱり彼らだって、そのことをウチワもめとは認めたくないはず。

誰だってそうなんだろうね、きっと。だから世の中は捨てたもんじゃないんだ。君はあの日、自分を捨てると言ったよね。けれどボクは、不思議なことに今でも信じているんだ。

きっと世の中が君を拾ったんじゃないかってさ。