新築の落とし穴 / 3匹の子ブタ / みんなで独り立ち

Title : 一つのお皿の上

 

 

ある牧歌的な村に3匹の子ブタがさほど仲良くもなく、さりとて不仲というでもなく、ごく普通に暮らしていた。暮らしていたといっても3匹は母親に養われており、母親はそろそろ彼らに自活を促す頃合いだと考えていた。

ある日、母親のバビが3匹を集めて言うには、自分は隣村のイノシシと世界半周の豪華客船旅行に出かけるので、その間にお前達はそれぞれの家を各々1匹だけの力で建てるように、と。

何故なら、私は異国のどこかで素敵な殿方と恋にでも落ちたなら、もう二度とこの地へ帰ってこないやも知れぬからだ、と。

見送る、と至極当然に申し出る息子達を強く制し、バビはお供となるイノシシを迎えに隣村へと出かけていった。残された兄弟らは、しばし焼きそばを漠然と食べていたが、やがて各々立ち上がり互いのプランを語り合うこともなく母親の家を後にした。

 

長男のブはワラを集め、それで家を作り始めた。ワラを選んだ理由は担いでも全く労がなく、村の畑と自宅敷地を何度でもたやすく往来できると考えたからだ。

彼はコーラをチビチビやりながら、けだるそうにワラを木の枝で組んだ骨子に立てかけてゆく。一寸の隙間なくワラで骨子を囲い込んでゆくことに想像以上の時間を要したことは、ブの持つコーラが完全に気抜けてしまったことで証明出来る。

彼は全ての作業を終え、多大な労力の見返りとして見事に完成した自身の新居にしばし酔いしれていたが、あることに気づいた時、全身に冷水を浴びせかけられたような衝撃を覚えた。

この家には窓もドアもない。つまり家から外に出られない。ブは内側からワラを考えも無しに並べ立て、ご苦労なことに自分で自分を幽閉してしまったのだ。

ブは座り込んだまま漠然と数時間をワラ牢で過ごした。時折、ワラを渡るそよ風の音が、資材を運んでいるベの途切れ声を極く傍まで運んできたりもしたが、ブは助けを求めようとはしなかった。

長男であるブは母親の意図を薄々見抜いていた。母は自分達がたった1人で生き抜いていけるように家の建造を命じたのだと。

ブは甘いだけのコーラを舐めながらワラを片手で激しくかきむしり、とうとう壁に大きな亀裂を。ふらふらながらも楽々と外に出た。大層ブザマな話ではあるが収獲もあった。ワラの家は造るに易く壊すに易い、という事実だった。

 

次男のベは、ブ宅から東へ約1キロほど離れた森の入口脇に木で出来た家を作り始めた。カナヅチ、ノコギリ、釘も使わず、ただ広い集めた木の枝を紐で縛って家を作る。建てるのではなく木の箱を大地に被せるだけといういい加減さ。

コロッケを口にくわえながら作業を進め、徐々にソレを食べ進む、というベの考えは実に効率の良いものではあったが、窓もドアもない家を完成させてしまい、自分は自分を幽閉してしまったと気づいた時、ベはショックのあまりに半分残っていたコロッケを丸ごと飲み込んでしまう。七転八倒の末、何とか回復。

ベは木の枝と枝にかけられた堅結び紐を必死の形相で食いちぎり、アゴが外れそうな激痛を覚えながらも、やっとの思いで脱出に成功した。決死のカミキリムシ途中、ブの鼻歌を間近に聞いたが、ベは助けを求めようとはしなかった。やはり次男もバカではない。ブ同様、母親の腹積もりをちゃんと理解出来ていた。

 

末っ子のボは、ゴロゴロ石が転がった森裏の野原に石を積み上げ、マイホームを作り始めた。石は途方もなく重い。しかしながら、これでなければ堅牢な家は造れない。

ボは自分が3匹並べるだけの小さな住居にすることで、労力を極力かけないつもりだった。早朝仕事にかかり家は翌朝なんとか完成した。耐えがたき疲労からくる睡魔を吹き飛ばしたのは恐ろしい事実に気づいたため。

この家には窓もドアもない。つまりボは自分で自分を自宅牢に幽閉してしまったのだ。

 

静かな牧歌的な村にそよ風が吹き込み、そのメロディのハザマに兄は弟の呼び声を聞いた気がして、皿の半熟目玉焼き6個に突っ込んでいた鼻頭を即座に上げた。

気のせいではない。

脱兎のごとく実家を飛び出すブ。走り始めるとすぐにベが追いついてきた。べは兄の鼻が真っ黄色であることに驚くが、今はそれを尋ねる暇(いとま)もなかった。

2匹が駆けつけると案の定、ボも幽閉の1匹芝居に興じている状態。すなわち助けを求める泣き声は窓もドアもない石の家内側から聞こえてくる。

2匹がかりで体当たりを数度試みてもビクともしない壁。ボがこれを1匹で積み上げたことが信じられない。

兄達は小石壁際、下の土を4本の前足で狂ったように掘り始めた。土は固いが湿り気を帯びており、ヒズメが割れることさえ覚悟すれば何とか掘り返せる手応えがあった。

ようやくボの泣き顔が土穴から覗く。兄達は泥だらけの4本の腕で弟を引きずり出す。

何で助けなど呼んだのか。お前は母さんの本心に気が付かなかったか。1匹立ちは無理なのか。

また会えてうれしい。お兄ちゃんッ!。