最後の選択 / 行き当たりばったりの果て / 選べない人

Title : 思うツボット(操縦士はタカビットガニ)

 

 

Q坊は向かい筋の子達と同じ様に、立派な制服に帽子を被り、一番見事だと呼び声高い幼稚園に自分も行けるものだとばかり思っていたのだが、違った。Q坊は母親に泣いて抗議したが、決してそこには行かせてもらえなかった。どうしてどうして!。Q坊は父と母を恨んだ。

Q少年は中学2年時、一生に一度の恋人だと転げ回って絶叫したいほど好きになった初恋女子にフラれた。フラれたというより、気づいた時には既に彼女には恋人がいた。評判のイケメンで、先輩差し置いてサッカー部キャプテン、学業成績トップの生徒会長だった。

 

Title : 壇上で演説中の思うツボット

 

 

Q少年は自室に閉じ篭り、鏡に写る自分の顔をみて嘆く嘆く嘆く。自分がイケメンでないのは親のせいだ。並外れた運動神経を持ち合わせていないのは全部親のせいで自分の責任なんかではない。少年は親を恨んだ。

Q青年は大学4年の青田買い時期、親のコネで簡単に就職が決まってゆく知り合い達から激励の言葉を受ける。Q青年は小さな商店主の父親を恨み、社会の裏側を恨んだ。自分の責任とは預かり知らない外の世界で、何事も決まってゆくことに強い憤りを覚えた。

Q氏は、3年のうちに3人の会社同僚にプロポーズしたが、全て断られた。3高ではなかったからだ。3高連中はまるで殿様扱いだった。Q氏は恨み疲れていた。妬み疲れていた。

Qは結婚し子供も1人出来た。夫である彼は相変わらず妻を他の妻達と事あるごとに比べ続け、愚痴をいい、時には罵り、子供の学業ふがいなさには怒りのあまり何度も手を上げた。子供の不出来は妻の血筋だ、そう言ってはばからなかった。

 

Qは棺桶に入り、そして出た。一面灰色の何もない世界。振り返るといつのまにか棺桶も無くなっている。何と自分の身体が宙に浮いている。宙に立っている。ふと気づくと正面から誰かがやって来た。目の前まで来たというのに顔が見えないその男。

「真っ先に聞きたいと思っていました!。此処は地獄でしょうか、天国でしょうか!」と切羽詰まった声のQ。

「ジゴク?。テンゴク?。それは何だ。どういう意味だ」

「此処のことです、ここのこと!。此処は一体何処になるんでしょうか、教えてください、早く知りたい何処でしょう!」

「さあ…。あそこに降りる階段があるだろう。千ほどある階段で自分の好きなところへ行けるのだ。ジゴクかテンゴクかは知らないが」

「ひとつしか見えません!。他の、ええと、999の階段は何処にあるのでしょう!。私には見えません!」

「へえ?。そうかい?。今まで、来る奴、来る奴、皆に見えてるはずなんだけどなあ…」