犬は何でも知っている / 犬の演技力考

Title : 全てを知っている何か

 

 

海外秀作映画の中で、時折、愛犬が飼い主に抱かれ、息を引き取る涙ナミダのシーンに遭遇する。

メグ(犬の仮名)は、薄れてゆく意識の中、飼い主を泣き濡れた瞳でチラ見し、弱々しく「クォ~ン」。そして帰らぬ犬となる。

観た人のほとんどは、メグの名演技にひどく感動し、感心する。だが、それ以上の事は何も考えないのが普通である。

私は考え、ガクゼンとした。海外映画やドラマに出演する犬の役者達について、空恐ろしい疑問を感じたのだ。

むろん、ここで言う犬の役者とはCGなど使用していない本物の実写演技をする犬達の事についてである。メグを代表犬として疑問点を幾つか挙げると、

1⃣ メグに、自分は架空の物語に出演した、という認識はあるのか

あるのかないのか誰にも分からない。映画やドラマ専用のアニマル貸出プロダクションも多く存在するが、サーカスを見ても分かる通り、生まれつき芸を覚えるのが得意な個体は確かに存在する。

アニマル当人は遊びのつもりか、これを行うとオヤツがもらえる、という認識で行っていると多くの人が推察している。

メグは演技を楽しい遊びとしてとらえているのかもしれない。

 

2⃣ メグは自分が死ぬに至った経緯を理解しているのか

飼い主以外の人、つまりアニマル演技指導者の指示で演技をするのだろうが、いくら指導者がその道のプロだとはいえ、何故、メグは飼い主と永久の別れをするにあたり、あのように人間顔負けの心残りのマナザシを作れるのだろうか。

メグは悪人に銃で撃たれたのだ。故に死んでしまうのだ。

しかし、メグは当然のことながら本当に銃撃されないわけで、撃たれて倒れるシーンが特殊効果抜きに実写撮影されたのである。

メグに、銃で撃たれると弾が身体に当たって致命傷であれば命を落とす、という認識があるであろうか。

とすれば、メグは訳も分からず、全く意味不明な状況下で、自分が何を演じているかも分からない状態で迫真の演技をしたというのであろうか。

そんなバカな。そんなのはおかしい。おかし過ぎる。

3⃣ メグは、演技をしたことによって出演料が飼い主、またはプロダクションに入ったことを認識しているのか。

道理で考えると、そんなはずはないと思われるのだが…。

では何故、ドキュメントとしか思えないあの演技は一体どこから生じるものなのであろうか。

4⃣ メグに演技指導したとして、物語自体を理解していないメグに、果たして指導者の意図が正確に伝わっているのだろうか。

分からない。分からなさ過ぎる。

 

苦悩した挙句、私が出した結論は、

メグは自分が役を演じるという自覚が有り、演技指導者の意図を正確にくみ取り、物語の流れを十二分に理解した上で、役に臨んだ。

そうとしか言いようがない。でなければツジツマが合わない。

 

子犬の時期だけ可愛がり成長すると殺処分する。お願いだからやめて欲しい、と切に願う。

アノコ達は何から何まで全て知っている。理解している。どうして自分は飼い主から離れ、今ここに居るのかを。この先どうなるのかを。

 

見知らぬ冷たい檻の中、これは架空の物語ではないことも、知っている。