絶食ダイエット (18) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳機能の低下

Title : 空きっ腹を覗き込む男

 

 

 

 

次第に当初の目的からガタゴト逸脱。

チョットあんた、浪人生なのに何やってんの?、と四六時中も自責の念。

絶食ダイエット13日目。

今日で終わりなんだから、と言い切れない自分が恐い。

やっぱり少し変。いや、かなり変。?。

脳が正常な判断を下せない状態にでもなっているのだろうか?。

急に不安。凄く不安。

発作的に勉強机に着席。

脳がマトモに、人並みに働いているか試してみなければ、と豆タン(手のひら大の英単語辞書)のページを適当に開き、まだ暗記していない単語をチョイス、ノートに筆記。

「VICTIM、犠牲。VICTIM、犠牲…」

と意味を口に出して呟きながらボールペンで何回も何回も繰り返し書き続ける。

大体ボクの単語暗記法はこんな感じ。大学ノートA4に1単語を5行。そこで次の単語にチェンジ。

そんなことを取りつかれたようにパジャマ姿で2時間。指が腱鞘炎(けんしょうえん)気味になってきたので終了。

壁に張り付いているナメクジをジワッとはがすようにペンから指を1本づつ。

ひええ。久々の勉強気分で後ろめたさが多少軽減。

「はぁぁぁ~、お疲れ」

真昼どき。

「ちょっと散歩してくる」

「あ、じゃぁ帰りに大根とキャベツ買ってきて」と母にパシリを命じられる。

通りに出ると5月の太陽光が閃光の様にボクの目を射抜いた。

やけに眩しい(まぶしい)。鋭い。

目を一本線のように細めフラフラと歩き始めると、カラッポの胃の中に雨上がりの湿った空気がヒウッと流れ込むのが感じられ、何だかいいようのない虚無感にとらわれる。

こんな時のボクは、いつもなら迷わず焼きそばパンと卵蒸しパンのセット食べで気分を発散させるのだが、当然それは今ご法度。日頃、いかに自分が間食摂取でストレスを消化排出していたのかという事実に気づき、しばしボーゼン。

白いテリヤを連れた女性とすれ違う。犬がボクを鋭利に見上げ、突如けたたましく吠え始める。

「アウアウッ!!、アアウッ!!、アーッ、アアウッ!!」( バカかお前は!! )

ふん。そんなこたぁ~言われなくても分かってるツゥの。

 

しかしマジやばい。

痩せる誘惑の勢いに圧倒され身動きの取れない今の現状は、マジやばい。

仕方ない。勉強の遅れはモーレツガリで取り戻すしかない。絶対そうします。

必ずガッツでやりますから今だけカンベンしてくんなまし、と独り頷きながら八百屋の前。

大根が半分切りで68円。半分でいいんだろうか。

キャベツ半分切りで108円。2つ買うといくらだっけ、ええと……………。

まず、100円+60円で160円。これに端数の16円を足すんだから合計は………………。

合計は、ええと………………………。

178円、違った176円。

ゆっくり血の気が引く。

こんな足し算に一体どんだけ時間がかかっているのか。

「ハイ、何差し上げましょ!」と八百屋の顔見知りオバサン。

「ああ。…母はいつも大根とかキャベツとか、半分のを買ってるんですかねぇ」

「ウーン!。1個売りのホー」

「じゃ、キャベツと大根の丸を下さい」

「あいよッ」

 

 

夜11時、入浴前の体重測定。多少苛立ちながら即、乗っかる。

56kg.。

 

56……何だっけこの数字。

 

 

その時、初めて測定針がボクにささやくのを感じた。

 

コレヲ、見ロ。

 

ほほおおおおおおおおお~。突然、自分が今、何をしていたのか理解する。

いきなり上機嫌となるボク。

 

これはボクの体重です!!。