Title : 顔を出した死神~トゲオ君
絶食ダイエット15日目。
朝10時に起床。夜更かししてラジオの深夜放送を聞いていたら眠れなくなってしもうたのだ。
それというのもカーペンターズの大特集をやっていて、カレン・カーペンターが過酷なダイエットを敢行した挙句に拒食症となり、遂には亡くなってしまったという話を聞いて心底凍りついてしまったからだ。
クワッ!と目を見開けば闇。
途方もなく限界のない大海に独り、小舟に仰向け、これは確かに例の噂の渡し舟!、の気分。
自分も死ぬのでは?!、という至極当然な感想が得られる。
止める。もう止める。絶対止める。
重く鈍い頭で、ヤドカリが新しい貝殻に移行する時に見せる静止を賭けた慎重さをもって布団から這い出てゆく。
「私は死にたくないのです……死にたくない…」
などと半分おふざけで呟いてはみるものの、立ち上がりかけて凄まじい眩暈(メマイ)、そのまま布団に受け身も取れずにブッ倒れる!。
しばらく仰向けのまま天井を見つめる。頃合い伺い、大丈夫そうな気がするので少しずつ起き上がろうと試みる。
もはや気分的なものではない。
明らかにこの体は危険な状態にある。医者でなくても分かるものは分かる。今ボクを診察して「問題ありませんね」などという医者がいたとしたら、それは絶対にヤブだと断言出来るほどの危うさだ。
部屋を出る。台所が薄暗い、テレビの音が聞こえてこない、ということは母外出中。
父母揃って進んだ放任主義、と日頃から高く評価していたこのワタクシであった。
あったが…。何故ここまで危険な状態に至るまで放置していたのであろうか!、などと逆恨みしつつ、遂に絶食ダイエット開始初、全裸となり玄関壁の姿見の前に立つ!。
少ししか痩せてない…。何だよこれ…。
既にボクの脳は正常な判断を全く下せない状況下にあった。
むろん、この時のボクはそれを知らない。
もう十分に痩せていたのだ。
肉体的機能の凄まじい低下はハッキリと認識出来るものの、まさか脳が栄養不足で半死の状態であるなど夢にも思わなかった。だって、ごく普通に物事考えていられるから。
薄暗いキッチンのイスに座し、しばし呆然と時を過ごす。
体重を計ろう。そうだそうだ。
もう。絶食は止めた。んだから。夜まで待つこ。とないんだよ。な。そうだそ。う。だ。今計っ。………てし。ま…