なぜ日本はIT社会になれないのか / なぜ今後もなれないのか / あいまいな日本語表現

Title : 一目瞭然なら許されるけど

 

 

我が国がIT後進国であるとコロナ禍において発覚したので、このたびIT庁をば作ります。

笑い死にしそうである。

そんなことは10年も前から認識されている。発覚したのは、その事実にさえ今まで気づかずに国会の方々、官僚の方々が明日の健全な日本社会を目指していたというギャグだろう。

なぜ、我が国のIT化は 、お話にならない程に先カンブリア期なのか?。と人々は口々に訴える。

答えは簡単すぎる。イカスミのパスタと聞けば誰もがイカの吐くスミなんだなと思う。タコの墨かもと思う人は一人たりとも居ない。

それほど、この答えは理路整然としている。

 

例えば、

 

TVやラジオの天気予報を何気に聞いていると、

近畿地方では~(なんたらかんたら)とか、中部地方は~

などと気象予報士が喋っている。

 

近畿ってどういう意味ですか。何の略語ですか。分かる人。

中部ってどういう意味ですか。バンド名じゃないですよネ。

 

何でイマドキ、この期にまで及んで甲信越だとか言っちゃうんでしょうかネ。

甲府周辺では、信越あたりでは、でもダメですヨ。

問題の根本は、どーして今尚、県名で語られないのかと言うこと。ひとうひとつ名前を列挙するのが面倒だから?。

それはソッチの都合でしょうが。何も外国人の人々に配慮した放送でなくても、

日本人で甲信越の意味が分からない人、沢山いると思いますヨ。日本人の漢字離れは常軌を逸していることもパブリックな皆さんご存知ないとは言わせませんけども。

もっと言わせてもらえれば、日本語そのもの離れが加速、ではなく離れ終えた、のですネ。もはや加速もへったくれもなく、完了しちゃってるのですヨ。

広島周辺が中国地方、今やチャイナの属国?なんてギャグでさえあります。

本当に日本語はヒドイ。IT世界でソレにしがみつけばしがみつくほど事態は悪化してしまう。今尚、日本人のほとんどが意味を理解出来ない古語オンパレードで民放刑法のページは満ち溢れている。

んだけど、だれも新しい、日本人誰もがスラスラ理解出来る用語に修正する気はないときた。

何で?。日本古来だから?。伝統大事?。変えちゃったら先人の方々に失礼だから?。

こういう考え、実は冗談ではなく本気みたいですヨ。

マ、誰かが国民の為に変えようと叫んでも、アッという間に袋叩きされるのがオチですけどネ、この国。

 

でも、菅という議員はそれをやると公言した。

私は本気で信じたい。しかし、皆が本気でIT社会を作る気があるのであれば、

日本に存する、足手まといな、慣習や習慣、それら一切を変えなければならない、という認識が果たしてあるのだろうか。

誘うと書いて、さそう、と読み、いざなう、とも読ませる。なぜ、こんな混乱を招くことばかりに満ちているのか、この国は。

あとでいくらでも言い逃れ出来るようにあいまいな表現、語句を用いる。やたら英語を取り混ぜてデタラメ語句を連発する。

ゴーツートラベルって何?。トラベルという場所に行く?。だったら頭痛が痛い、という言い方もアリですかネ…。

いい加減な言葉のボートク。それを改めようともせず、変えるべきは変える、などと偉そうに胸を張らないでいただきたい。でなければ偽善になってしまう。

Tシャツを着て「襟を正す」と言えばギャグになってしまうので、議員はTシャツ姿ではこの言葉を使いたくても使えない。

ここに日本語の限界があり、IT時代の敗者、の証明がある。ITへの移行時に生じる伝達内容全てに対し、あいまいな日本語表現がよってたかって足を引っ張ることだろう。

IT対日本語。理路整然VSあいまい。

 

嫌われた妖精 / 明日咲とサリー / 今日だけは泣く

Title : つまびけば思い出す

 

 

身長151センチ、23歳独身、ファミレス・アルバイト歴10ヶ月。その彼女が注文を取りにテーブルへ姿を見せると、年配客の8人に1人は必ず決まってこう尋ねる。「あら可愛い。あなた年幾つ?」

無理もない。明日咲(あそう)の姿は誰の目にもせいぜい16歳。高校生のウェイトレスが珍しいわけでもないのに。明日咲は、その高校生にさえ見えないからなのだろう。世俗離れした、浮世離れした純粋無垢な妖精の様な存在感。妖精であれば普通なら近寄りがたい。まして声をかける勇気など人間には無し。のはずだが、オカッパ黒髪の明日咲のルックスは月並み。とっても地味顔。だから気さくに話しかけやすい。気さくを超えるほどだ。

 

「白玉あずき上がりまーす」「はああーい」

 

明日咲は精一杯に爪先立ち、両腕を拡げ白玉あずきの乗ったトレー両端をハッシと掴み、フラフラッと一瞬前後に揺れながら足裏をしっかと着底、全身をガチガチにしながらテーブルへとスィーツを運ぶ。

「お待たせ致しました」

「アレ!。抹茶、白玉アイスなんだけど」

「え。…確か白玉あずきだったと…」

「何言ってんのオタク。抹茶白玉アイスって言ったよオレ、なあ」

30代男性の連れ2人も、仕方ねえなあ顔で面倒臭そうに頷く。

「大変失礼致しました。今お取替え…「ああいいよもう、面倒臭ぇ。置いてきなよ。…オタクいくつ?」

「…24です」

「?……」

ちょっと間が空き3人が明日咲に目視出来ない笑いを作った。それを彼女はよく知っている。

引き上げる明日咲の肩越しに「何だアレ」というかすかな声。 “嫌われた妖精 / 明日咲とサリー / 今日だけは泣く” の続きを読む

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アナタが赤ちゃん言葉ゴッコしようって言ったから

だからアタシも、いいよって

アナタが髪は後ろで結べる長さが好きだって言ったから

だからアタシも、いいよって

アナタがホラー映画を一緒に観たいって言うから

アタシ決死の覚悟で、いいよって

アナタが料理が上手でないと結婚出来ないって言ったから

だからお料理学校、卒業したの

アナタが男友達と付き合うなって言ったから

だからアタシは、いいよって

アナタガメソメソなく女は大嫌いだって言うから

アタシは絶対泣かなくなった

アナタが私を両親に紹介したくないって言うから

アタシは作り笑顔で、いいよって

アナタがアタシ達の子を堕ろせって言うから

 

 

アタシは壊れてしまいそうだったけど、い  いよっ  て

 

 

アナタがアタシと別れるって言ったけど

許さない

絶対にそれだけは許さない

絶対にダメ

アナタを聞いてアタシはアナタになったんだ

許さない 絶対にそれだけは

 

 

許さない

 

 

◆写真タイトル / 小っちゃなお人形

 

 

 

華夏とK / 十月の軽井沢/ 告白

 

 

 

ジャコウの香りを階段に続けながら華夏(かな)が地下のスチームバスから戻って来た。

「出来たんだね」アルデンテの立ち上る湯気を覗き込み、じゃ香の香りを飛ばす華夏。その濡れたストレートヘア先の一滴、パスタを皿に盛りつけているKの腕を狙って落ちる。

ブナ林の中に建つ三階建ての小奇麗なペンションは、期せずして二人の貸し切り状態となった。

「オフシーズンでもラッキーだよ。それだけでもお祝いしなくちゃね」と華夏。

「そうだね」と言い口笛をヒュゥーン。これはKが嬉しい時に吹く風の音の癖。

2人はワイングラスを重ね儀式の様にひとくち飲み、グラスを置くと、ほぼ同時に窓のすぐ先を流れる渓流に目を流した。

「暗くても白く渦巻いてるところ見えるよ。華夏、見える?」

「うん。見える」

Kは白波、華夏が見ているのは窓ガラスに映っているKの顔だった。

三泊四日旧軽井沢。閑散としたこの地を渡る十月の風は、人生の羅針盤を狂わせるのに案配がいい。そう噛みしめながら車を降りた華夏だった。噛みしめていたそれを伝えるタイミングが今宵。

「K。ワタシのことどう思う?」

「ん。何が」

「恋人になれる?」

「……。ちょっと。…………好きな人いたの?」

「目の前にいる」

「ん。…………」

意味が分からないと言いかけ、たちまち解る。華夏の眼を見て完全に理解する。

「ワタシ達、そう出来ない?」

親友の顔がまるで別人。誰このヒト、すごく綺麗…。

Kは最後のサラダを一気に口に入れ、良く噛まないまま飲み込んでしまったせいで、喉の奥に少しサラダが引っかかっている感覚があった。それをワインで流しこもうとグラスに手を伸ばしかけたところで華夏に衝撃発言をされたので、サラダはまだKの喉奥に残ったままだった。Kは少し蒼ざめながらグラスをゆっくり手に取り、大人っぽい仕草で琥珀の液体を口へゆっくり流し込む。

ゴホッ!。

咳き込むKに「ごめんK.……平気?」と立ち上がりテーブルに両腕つく華夏。

顔を両手で覆い、テーブルに突っ伏し気味で頷くK。それは、同性しかも親友に告白されたショックのせいではない。華夏に比べ自分があまりに子供っぽく感じられて恥ずかしかったのだ。

Kが顔を覆ったまま固まってしまったので、華夏は少し困ったような悲しい顔をして突っ立っていたが、やがて素足のまま部屋奥のサッシまで。

「話の続き出来るんだったら、外来てよ。ダメなら忘れるから」

Kの耳に、突如あふれかえる鈴虫達の鳴き声が飛び込んで来る。窓が開けられたから。

丸くなるにはまだ早い月が出ている。バスローブ一枚しか身にまとってはいない華夏には肌寒いはずの時間帯。それを感じさせないのは、この噛みしめた想い。

 

五分が経ち十分が過ぎた。振り返らない華夏。テーブルにKが居るのかどうかさえ分からない。Kは気まずい時には気配を消す癖があるもんね。小一時間ほど経過した頃、僅かに肌寒さを感じ始める。ダメなんだ…。

 

その時、背後で小さく口笛が聞こえた。

 

 

◆写真タイトル / もうひとつの十月

 

 

 

不思議な拡散 / 美しき連鎖 / ディフェンスを破る者

 

 

 

どうしてかまうの 誰が頼んだの どういうつもりなの

どうしてくるの 私頼んでない どうして話しかけてくるの

何でなの 誰かと相談でもしたの 放っといてほしいけど

どうして分からないの 自分だけでいいと いっているのに

何様のつもりなの 私はひとりでいたいのに 一体何なの

ケイコク ユーザーカクニン デキマセン

トロイノモクバニ タイショチュウ

20%カンリョウ

どうしてあいさつするの おかしいでしょ どういうつもり

どういうこと 説明もいらないし どこか消えて

消えて消えて いなくなれ

35%カンリョウ

わたしが見えるなんて どうかしてる うそつきうそつき

気配消してる私 何で見えるとかいうの おかしいおかしい

愛とか夢とか うざいうざいうざい だまれ消えろなくなれ

どういうことかって聞いたんですけど 何なの一体

43%カンリョウ

サクジョデキマセン

トロイノモクバニ タイショチュウ

48パーセントカンリョウ

ひとりがいい ひとりがいい 孤独とか何 知ったかぶりやめて

誰かといけば よそ行けば ここにくるな 二度とくるな

諦めてなにがわるい 知ったクチきくな お前になにがわかる

泣いたことないと 思ってんのか

悲しまなかったと 想ってんのか

おまえになにが分かる そばにくるな 消えろ うざい

60%カンリョウ

ケイコク

データベースヲ ホゾンシテクダサイ

聞きたくない 聞きたくない くだらない何もかも 消えろ

笑えるオフザケやってみろ 面白かったら笑ってやるよ

しょうもない くだらない 何しにきたか 意味ふめい

えらそうにすんな えらそうに言うな ああうざいうざい

聞きたくない 聞きたくない 誰だおまえ いつからきてる

トロイの木馬にタイショチュウ

ケイコク

ケイコク

トロイノモクバニ 対処チュウ

70%カン

 

 

 

パスワードガヤブラレマシタ

 

 

 

アナタのことを誰も知らない街で降りて

アナタのことを誰も知らない店に入る

アナタはやさしい人で 親しみやすい

笑顔で店員とやりとりをする

それを終えたらカフェに入り 自分の街のカフェにいる自分とは別人を演じる

にこやかにオーダーし ありがとうと笑って答える

そしてゆったりとお茶を飲み この世はすばらしいといった顔つきで外を眺める

それを終えたら街に帰る

無表情でつまらない顔に戻ればいい

週末には再びアナタは アナタのことを誰も知らない街へ行き

とてもさわやかな顔を作る さわやかな声を作る

それを毎週繰り返す 毎月繰り返す 毎年繰り返す

ある日気が付くと アナタの横にはニコニコした友だちか恋人が座っていて

アナタのすてきな笑顔は

作り物ではなくなっている

 

 

 

ホゾンシマスカ

 

 

 

 

「一応…」

 

 

 

 

◆写真タイトル / もの言わぬ目

 

 

 

 

雨 / 毬と子犬 / 行っちゃダメ!

Title : 

 

 

日曜昼下がり、都会の雑踏ただ中。憂鬱な雨の中、傘と共に二の腕の肌寒さも畳もう(たたもう)と足早に百貨店を目指す毬咲(まりさき)、ふと目を落とした信号待ちの断裂傘群の隙間、ひょろけたムク犬の姿に胸を突かれる。

ココア色の体色に真っ黒な鼻回り、びしょ濡れで露呈した貧相な肉付き。

近寄って屈み子犬を抱き上げようとして左耳の上を誰かの傘骨先でこすってしまう。軽い痛みを黒髪で流し投げ、素早くしゃがみ子犬をトレンチコートの下に覆い隠す。

意外なことに、きゃしゃな子犬は彼女の眼下、コートシェルターから飛び出す様によろよろと真逆方向へ小走り。数人の脚で軽く蹴られながらも足を止めようとはしない。

蒼ざめた毬咲は素早く数メートル人林を潜り抜け、再び子犬を貝襲うタコの要領で手中に収め唇を強く噛む。

さっきと真逆側の信号が変わり、向こう岸とこちら岸の入れ替わりが始まる直前、毬咲は立ち上がろうとした刹那、彼女だけは決して見てはならない光景を目の当たりにする。

彼女が交際を始めるかもしれない予感を持ちえた男性が、恋人らしき女性と毬咲の前を横切る。幸せそうな2人。子犬が2人を見せたといってもいい。

 

犬持ち込み厳禁のマンション一室に戻った毬咲は子犬にドライヤーを当てた後、暑いシャワーを浴びながら先ほど目撃した光景をフラッシュバックさせてみる。

バスタオルを使いながら置時計を右斜め見。親友の麻子が食事に来るまであと30分もない。続いて左見。キッチンの隅、冷蔵庫の横、隠れているつもりか上目遣いに毬咲をジッと見上げ続けているムクちゃん。

ヘッヘッヘッ…、ちっちゃな濃いピンクのベロが愛らしい。

 

「何食べる?。ミルクもあるんだよ」

そう話しかけ冷蔵庫の取っ手を掴んだ時チャイムが鳴った。

“ おお来た来た、ちょっと早いけど ”。

スリッパ引きながらドアへ歩み寄る毬咲より早く、ムクが彼女とドアの間に挟み入り、クルッと彼女に向き直ると、左右前足で切なげに宙をかき始めた。

「なあに?」

ア・ケ・ナ・イ・デ

そう懇願しているように見えた。不思議なことに。

毬咲はドアの前で気配を消したまま、ジッとムクを見下ろし続けている。その間チャイムは3度鳴り、やがて再びの静寂が訪れる。ムクの動作が止ん(やん)だ。

毬咲はスリッパを脱ぎ、足音を消して窓際へ。カーテン越しに信号機ライトや窓灯りをにじみ映しているイルミネーション道路を見下ろす。

麻子の車がない。代わりに数メートル離れた所に止めてあるジャガーに乗り込もうとする彼の姿が視界に。

何しに来たのかしら、さっきの彼女はどうしたのかしら。

 

バカな私ッ。

発作的にトレンチコート引っ掛け、目にも止まらぬ速さで廊下に裸足で飛び出す毬咲。背後でキャンキャン聞こえるその鳴き声は悲痛!、

イッチャダメ!

エレベーターが閉まり鳴き声が止む。

降りしきる雨に濡れそぼる2人が、もつれる様に抱き合いながら部屋へ戻ってきた。もう毬咲の頭の中は親友をどう追い返すかで一杯。ムクの姿がないことには気付きもしなかった。

数か月の交際。結婚のプロポーズを待つ彼女に彼は別のことを囁いた。彼はAV業界の人間だった。

その翌月、毬咲は母の墓参りに帰省。何となく故郷に戻りたかった。実家隣のおばさん宅でお茶を飲んでいると、

「そうそう、お母さんの写真、1枚あるから持っていきなさいよ」

手に取り覗きこむと、母が見覚えのあるムク犬を抱いている。

「この犬は?」

「ああ、入院する少し前に捨て犬がかわいそうだって、連れて帰ってきたのよ、ザンザ振りの中、びしょ濡れで可哀そうだったって」

 

◆写真タイトル / 雲ゆき

 

 

 

 

 

弁当箱の友 / 一期一会(いちごいちえ)

 

 

 

中学2年に進級すると児童達が忌み嫌うクラス替えがある。顔見知りを見つければ助け舟気分、見知らなければ様子を伺い蒼ざめた面持ちで身構える。陽光や風に肌をこすられ、渓流の水底の石達が丸く姿を変えてゆく様に、ボクらもいつしかそれに習う。

彼だけは違った。彼だけが違った。だから皆も彼を遠ざけた。きっと1人が好きなんだろうと。或いは、得体の知れぬ者に近づいてはならない鉄壁の防衛本能でソレを退ける。

「え?誰?。アイツ?。知るか。放っとけ」。誰も彼と喋らない。真っ黒に日焼けし、目だけが大粒ドングリの様にクリッとしている、やせっぽちの彼。彼は誰からもイジメられず、彼もまた誰をも傷つけなかった。何故なら彼は教室のどの席にも居なかったのだ。実際は無遅刻無欠席の模範生徒であったのに、担任教師ですら、彼を時として見失うことがあった。

二学期登校初日、突然の席替え。夏休みが終わりスクールブルーな児童らは、力なく机の私物を取り出し、夢遊病者の様に各所を漂いながら新しいタコツボに次々と身を沈めてゆく。ボクの横は誰だ?…。遅れてやってきた者を見上げると彼だった。一瞬だけ、彼の真っ白な健康白身の眼と、ボクの睡眠不足で赤く充血したタラコ眼が交錯。すぐ2つの顔は磁石同極。強い向い風で目にゴミなど入らぬ様に。

二人用の机に座る者同士が、順繰りに日直ペアとなる掟。「ヤカン(昼食時の)、ボクが取ってくるからサー、△△は湯呑(を持ってくる)でいい?」と勇気を出して話しかけるボク。話しかけられた事実に一瞬面食らう彼。一拍あって伏目のまま頷く。

皆が持参の弁当を食べ始める。遅れてボク、そして彼。食べ始めて驚いた。彼の食べ方が余りにも奇異だったからだ。弁当箱乗せた机に覆いかぶさるように前屈姿勢、両腕で鈍い光を放つアルミ製弁当箱を、誰の目にも触れぬようにディフエンスし、かぶせたままのフタを僅か(わずか)にずらしながら、オカズが見えないよう全神経研ぎ澄ませて食べ物を口に突っ込む。眼にも止まらない速さだから真隣のボクにさえ、今のソレが何だったのか分からない。

3センチの隙間に箸を突っ込んでは食べ物をかき出し、なくなればフタの角度を変えながら食物の在りかを探る。ボクはポカンと口を開けたまま。見られている不快感に全身を硬直させている少年。どうにか気配に気づき、慌ててボクも弁当を食べ始める。

それから1週間ほど経った。自分でも驚いたのだが、ボクは唐突に彼の弁当箱上を這いまわっているフタ上に、ササッと自分の肉団子を乗せてしまった。彼の目が驚愕で一層見開かれたその刹那、口に食べ物頬張ったままのボクは、「旨い。ソレ。旨い」。何だこの言い方。外人がカタコトの日本語で日本人に話しかけているかのよう。以外にも、彼は僅かに頷きソレを食べた。そして昼休みが終わった。何事もなかったように立ち上がる2人。

ボクは翌昼休みも同じことをやった。やるつもりでいたし。実際にやった。目的などない。中学2年生の深層心理など複雑極まりないに決まっている。自分でさえも自分のしていることが分からない時がある。ともあれ、彼は迷惑な表情など微塵も見せず、少し照れたように、そしてぎこちなく、毎回それを食べた。チョコッとだけ会釈する仕草をしてから。

それから2週間ほどしての昼食時、ボクは自分の言葉に耳を疑う。

「ボクにも何かちょーだいよ」

彼の箸さばきがピタッと止まった。数秒して「美味しくないよ」

「美味しくなくてもいいからサー、何かちょーだい」

彼は冷や汗を流すかのように、おずおずと茶色い何かを箱から引きずり出すと、ボクの白米の上にそっと置いた。ボクは顔を近づけ、何だコレ、とパクリ。ああ、大根の煮付か。ボクの嫌いな食べ物ベスト5に入る奴じゃないか。「へええー、すっごい旨いジャン。お母さん料理上手なの?」「お父さん」「お父さん作った!。へええええー」。

翌日も、その翌日もボクは要求した。当然の形としてオカズ交換(その都度1回)の慣習が出来上がる。その時々で、ボクは彼の投下物を旨いと言ったり、イマイチといったり。それに対し、ボクの投下物に彼は何もコメントしなかった。強く頷きながら食べている時、それは美味しかったのだろう。口元に笑みが浮かぶようになった。

ボクが転校する時、遠ざかるプラットホームの友人達数人の中に彼の姿があった。その時でさえ、友人達は彼を透明人間のように扱ったが、彼はさしてメゲる素振りも見せなかった。ボクと彼のつきあいは昼食の儀式だけ。それは数か月間の出来事だった。もはや互いの姿を完全に消失し終えた今、ボクは走り急ぐ列車の椅子にヘナヘナと座る。

目を閉じた刹那、弁当箱のフタを取り、並んで白米見せあって食べた彼との11日間がフラッシュバックした。

相変わらず2人の間にさしたる会話はなかったが、ボクは彼の笑顔の可愛さを認識するに至っていた。その横顔を思い出した時、ボクは上と下の歯が閉じ併せられない程、泣いた。

 

◆写真タイトル / せせらぎのうねりを聞きながら

 

 

 

新築の落とし穴 / 3匹の子ブタ / みんなで独り立ち

Title : 一つのお皿の上

 

 

ある牧歌的な村に3匹の子ブタがさほど仲良くもなく、さりとて不仲というでもなく、ごく普通に暮らしていた。暮らしていたといっても3匹は母親に養われており、母親はそろそろ彼らに自活を促す頃合いだと考えていた。

ある日、母親のバビが3匹を集めて言うには、自分は隣村のイノシシと世界半周の豪華客船旅行に出かけるので、その間にお前達はそれぞれの家を各々1匹だけの力で建てるように、と。

何故なら、私は異国のどこかで素敵な殿方と恋にでも落ちたなら、もう二度とこの地へ帰ってこないやも知れぬからだ、と。

見送る、と至極当然に申し出る息子達を強く制し、バビはお供となるイノシシを迎えに隣村へと出かけていった。残された兄弟らは、しばし焼きそばを漠然と食べていたが、やがて各々立ち上がり互いのプランを語り合うこともなく母親の家を後にした。

 

長男のブはワラを集め、それで家を作り始めた。ワラを選んだ理由は担いでも全く労がなく、村の畑と自宅敷地を何度でもたやすく往来できると考えたからだ。

彼はコーラをチビチビやりながら、けだるそうにワラを木の枝で組んだ骨子に立てかけてゆく。一寸の隙間なくワラで骨子を囲い込んでゆくことに想像以上の時間を要したことは、ブの持つコーラが完全に気抜けてしまったことで証明出来る。

彼は全ての作業を終え、多大な労力の見返りとして見事に完成した自身の新居にしばし酔いしれていたが、あることに気づいた時、全身に冷水を浴びせかけられたような衝撃を覚えた。

この家には窓もドアもない。つまり家から外に出られない。ブは内側からワラを考えも無しに並べ立て、ご苦労なことに自分で自分を幽閉してしまったのだ。

ブは座り込んだまま漠然と数時間をワラ牢で過ごした。時折、ワラを渡るそよ風の音が、資材を運んでいるベの途切れ声を極く傍まで運んできたりもしたが、ブは助けを求めようとはしなかった。

長男であるブは母親の意図を薄々見抜いていた。母は自分達がたった1人で生き抜いていけるように家の建造を命じたのだと。

ブは甘いだけのコーラを舐めながらワラを片手で激しくかきむしり、とうとう壁に大きな亀裂を。ふらふらながらも楽々と外に出た。大層ブザマな話ではあるが収獲もあった。ワラの家は造るに易く壊すに易い、という事実だった。

 

次男のベは、ブ宅から東へ約1キロほど離れた森の入口脇に木で出来た家を作り始めた。カナヅチ、ノコギリ、釘も使わず、ただ広い集めた木の枝を紐で縛って家を作る。建てるのではなく木の箱を大地に被せるだけといういい加減さ。

コロッケを口にくわえながら作業を進め、徐々にソレを食べ進む、というベの考えは実に効率の良いものではあったが、窓もドアもない家を完成させてしまい、自分は自分を幽閉してしまったと気づいた時、ベはショックのあまりに半分残っていたコロッケを丸ごと飲み込んでしまう。七転八倒の末、何とか回復。

ベは木の枝と枝にかけられた堅結び紐を必死の形相で食いちぎり、アゴが外れそうな激痛を覚えながらも、やっとの思いで脱出に成功した。決死のカミキリムシ途中、ブの鼻歌を間近に聞いたが、ベは助けを求めようとはしなかった。やはり次男もバカではない。ブ同様、母親の腹積もりをちゃんと理解出来ていた。

 

末っ子のボは、ゴロゴロ石が転がった森裏の野原に石を積み上げ、マイホームを作り始めた。石は途方もなく重い。しかしながら、これでなければ堅牢な家は造れない。

ボは自分が3匹並べるだけの小さな住居にすることで、労力を極力かけないつもりだった。早朝仕事にかかり家は翌朝なんとか完成した。耐えがたき疲労からくる睡魔を吹き飛ばしたのは恐ろしい事実に気づいたため。

この家には窓もドアもない。つまりボは自分で自分を自宅牢に幽閉してしまったのだ。

 

静かな牧歌的な村にそよ風が吹き込み、そのメロディのハザマに兄は弟の呼び声を聞いた気がして、皿の半熟目玉焼き6個に突っ込んでいた鼻頭を即座に上げた。

気のせいではない。

脱兎のごとく実家を飛び出すブ。走り始めるとすぐにベが追いついてきた。べは兄の鼻が真っ黄色であることに驚くが、今はそれを尋ねる暇(いとま)もなかった。

2匹が駆けつけると案の定、ボも幽閉の1匹芝居に興じている状態。すなわち助けを求める泣き声は窓もドアもない石の家内側から聞こえてくる。

2匹がかりで体当たりを数度試みてもビクともしない壁。ボがこれを1匹で積み上げたことが信じられない。

兄達は小石壁際、下の土を4本の前足で狂ったように掘り始めた。土は固いが湿り気を帯びており、ヒズメが割れることさえ覚悟すれば何とか掘り返せる手応えがあった。

ようやくボの泣き顔が土穴から覗く。兄達は泥だらけの4本の腕で弟を引きずり出す。

何で助けなど呼んだのか。お前は母さんの本心に気が付かなかったか。1匹立ちは無理なのか。

また会えてうれしい。お兄ちゃんッ!。

 

 

 

測定値の時代 / 糖度計 / ウソ発見器 / 心の測定値

Title : 計り合いたい二人

 

 

「測定値の時代なんだねオジイちゃん!。何でもかんでも数字で価値が分かる時代に生きてるんだネ、ボクら」とツブラな瞳を輝かせながらポケット糖度計をしげしげと眺める株重(かぶしげ。小4)。両手はミカンの絞り汁でベタベタ。

「そうだなハ~。オジイちゃんも、まさかここまで文明が進歩するなんてカブシゲの年頃は想像もつかなかったよホ。皆スポーツが大好きだったんだよなハ~」

と、目の中に入れたら激痛なので実際はしたことがないものの、入れたいぐらいに可愛がっている孫の手の果汁をタオルで拭き取りながら重㈱。(しげかぶ)

「エッ。今でもみんなスポーツ大好きだよ。ボクがサッカーでJリーグに行きたいって、知ってるでしょオジイちゃん!」

「ウムウム知ってるよホ(笑)。スポーツの勝敗はみんな得点で決まるだろホ?。観ていて分かり易いんだよ勝ちそうだ負けそうだが。…そんでもって得点が追いつかれそうになったり逆転したりすると興奮して大騒ぎになるからねヘ~(笑)」

「そーだね!。学校のテストも得点ついてくるけど勝ち組と負け組で泣き笑いだもんね~。世の中、全部の物の価値が数字で決まっちゃうんでしょッ?。お金で世界が動いてるんだから。お金も得点と同んなじでしょ?。泣き笑いだから」

「でもなハ、数値で測定出来ないのは人の心だなハ~。これだけは無理だハ」

「でも体温計とか体重計とかあるよ。脳波も測定出来るし嘘発見器もあるから、そのうち心を計れる測定器も出てくるよ絶対!。今のテクノロジーって全然凄いもんねッ!」

「そうだなハ~。そんな時代が来てもおかしくはないなハ~(笑)。カブシゲは好きな女の子が自分の事どれくらい好きか知りたいんだろホ~?。100点満点で相手の子がカブシゲを何点くらい好きだったら結婚すると思うかハ~い?」

「100点満点に決まってるよオジイちゃん!。ただ付き合うだけなら100点じゃなくてもいいけど、結婚となるとヤッパり満点じゃないと後々モメる原因になるよ!。そうでしょ?!」

「そうだなハハハ……。それじゃカブシゲも相手の子から心を測定された場合は100点なんだねヘ~。満点カップルってことだハ~、相思相愛だねヘ~(笑)」

「うん、その通りだよオジイちゃん!。オジイちゃんはオバアちゃんのことを100点好き度数だったから結婚したのッ?。ポケット測定器あったら計ってたでしょ?、マジで!。実際のところは何点くらいだったの?」

「そホだなハ~。結婚したての頃は50点くらいだったんじゃないかなハハ…」

「エエーッ!!、そんなの絶対あり得ないよォーッ!!。50点くらい好きな人なら世の中にゴロゴロいると思うよーッ!。それくらいなら結婚しないで友達でいいんじゃないのォーッ!!。ボクそんなの絶対(結婚)しない!。あり得ないーッ!」

「ホホホホ(笑)、そ~かそ~か。じゃあカブシゲは100点満点同士で結婚した後にだねへ、も1回お互いに好き度数を測定して、どっちかが50点くらいになってたらどホするのかなハ~?」

「エーッ!、そんなの見えてる、離婚でしょ!それしかあり得ないでしょー!。あ?。オジイちゃん最初から50点なのに、どうして離婚しなかったのサ?!」

「オバアちゃんがオジイちゃんの好きをなハ、100点にしてくれたからだよホ」

「エ!。いつくらいの時?!」

「昨日…」

「エ。だって、昨日…オバアちゃんのお葬式だったんだよ」

 

◆写真タイトル / ふたつ

 

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維新の夢 / 極楽とんぼの夕暮れ / 坂本龍馬

Title : その夜

 

 

オニヤンマの坂本は潮風避けた樹幹葉陰から桂浜見下ろし、かすかに風になびく葉先にて同志を待つ。浜へ降りる階段下ではアイスクリン屋台のオヤジが店じまいをしている様子。八月に入ってからは大抵そこに居るが…。ほどなく空の青を取り込んだ銀ヤンマがやって来た。

「すまんすまん!、チイッとばかし遅れてしもうたぜよ!(苦笑)。ちっくと時間あったキ、浜辺流しちょったら何やら訳あり気なカップルがおってのぅ。何気に話聞いとったら遅れてしもうた、すまん!(汗拭き拭き笑)」

坂本は葉片を口にくわえクチクチやりながら、湿度にけぶる薄桃色がかった水平線を遠い眼差しで眺めながら、

「それはエエけんどよ、オマンは何しに浜辺行きよったが?」

「それよ。五色砂の色合いが急に懐かしゅうなってのう。かかさま、ととさまにも永らくおうとらんチャ(会ってない)。ゴシキ見たら面影何でか思い出すわけやキ。…マッコト(誠)思い出せるのやキ」

坂本は真横に留まった中岡の顔を見ず、水平線を尚も見やりながら、

「おうか(そうか)。……ほいで、そのカップルの話ゆうは何ぞね」

「オレもハッキリしたことは分からんけんど、若い2人はお遍路周りで知りおうたらしいで。そんうち男が女を好いた、マッコト好いた。ほいで今、結婚したいゆうたんやけんど、女が言うには、この世の全ての煩悩を断ち切るため、不生不滅願うて遍路道に立った私が、結婚なんてどげぇして出来るんね、やと。怒っとったわ」

一瞬、強い風が吹き抜け、小枝に並び留まる2匹のトンボは仲良く上下に寸分たがわぬ同じリズムで揺れた。

「おうか。キッツい話やぜ…。ほいで男はなんちゅう物言いやった」

「男もそれは分かっとる、分かっとるけんど女に出おうて前向きに生きていけそうな気がしたんやと。連れ添うて助け合いながら生きてゆきたいんやと。ほしたら女が、ウチのお父さんがお酒に飲まれて壊れてしもうたんアンタ知っとるやないの、結婚してアンタ一緒に介護してくれるんか、出来んゆうとったやないの前に。自分の世話もようせんドクレモンが人の世話ち、出来んてゆうとったやないの。違う?」

「中岡。オマン、どこでそん話聞いちょったが?」

「はぐれ岩の上よ。ちょうど風がエエ具合やったキ、留まっておれたぜ。ちっくと羽根が湿ったけんど、ここで乾かせばええ思うてよ」

「おうか。オマンにもそげいな酔狂な性があったんか(笑)。京都の近藤が聞いたら歯ぁ見せて笑いよろうがのう(笑)」

「新鮮グミは好かん。クワの実がええよ。…ほいでな、突然男がチウしよったぜよ。オイはマッコトたまげたキね」

「チウ?。それは何ぜよ」

「接吻よ。坂本オマン、諸外国の言葉、まだオレよりだいぶ低い」

「おうか。中岡には勝てんか(笑)。まあエエけんどよ、結局2人はどげぇなった。こっから樹木に隠れて、はぐれ岩んとこは見えんかった。別れたんか」

「いや。面倒は見れんけんど自分も断酒するゆうて男が誓うとったキね。そんで女もゆるうなって、丸一年ほんまに酒飲まなんだら考えるちゅうことやった。そんでオイも一応ケジメがついてな、ここいらでエエやろ思うて此処に来たゆうことよ。坂本はヤブ蚊でも食うとったんか」

「いや、なんか夏風邪みたいで調子が悪い」

「そらいかん。オイがなんか精つくもん買うてきちゃるキ、ここでちょっと待っとき。シシャモ鍋でも食わんかよ」

「すまんのう」

風が世にも悲し気な泣き声を坂本に運んで来た。それは桂浜水族館に飼育されているオットセイ。波を想って振り絞る、悲しい悲しい望郷の叫び声だった…。