虫のいい話 / カンに障わる話 / 虫の居所が悪い

Title : 受賞メダルは金メッキかも

 

 

 

本年、『昆虫に於ける、早く人間になりたい!についての考察』で

述べる賞に輝いた、

近中氏(ちかあたる。66歳建売り住宅に在住。昆虫学者。泣き上戸) が

壇上に姿を現すや、観客席から割れてしまった拍手が湧き起こった。

 

「ええ……。ストック底をつきホルムに来たのは初めてではありますが、

皆さん通常の体温を超える温かい人ばかりで安心致しました…。

私の長年に渡る考察が、今回高く評価されたということは、

私の飼っております水中昆虫であるところの源五郎(みなもとのごろう)

にとりましても非常な喜びでした。感謝致します。

最初のとっかかりは、妻の私に対する不用意な罵声でした。

「働かずに食べられるようにしたい」と冗談めかした私に、

そんな虫のいい話がどこにあるのよ!

と噛みついてきたのです。私はハッと息を飲みました。

虫のいい話

これは果たして、如何なる解釈をすれば適切であるのか、と。

いい虫の話、或いは虫にとって良い話

ということなのか、という疑問です。

この虫の正体とは一体何なのか。これが研究の発端です。

容易に答えは出ず、私は類似サンプルの収集を始めました。

 

虫の居所が悪い

この法則も私を一層窮地に追いやりました。

ご存知のように、虫は種類によって色々な環境下で生活を営んでいるわけで、

それを居所が悪いと簡単に言われても…。

一体、どの虫が不適切な所へ何の目的なり意志で行ったのか、

皆目見当がつきませんでした。

 

疳の虫に触る

カンに触ることが出来る虫とは?。

やはり人間の体内に潜んでいると言わねばなりません。

これら一連の真理はサナダムシのことを指しているのではないか、

最初はそう疑ったほどです。

 

立て食う虫も好き好き

これも悩みの種でした。

長年、昆虫学者をしておりますが、

立ち食いをしている昆虫を見たことがないのです。

カブトムシは立っているように見えますが、

幹にしがみついてるので

厳密には立っているとは言えません。

 

泣き虫こむし

これもシュールでした。鳴くのではなく、泣くのですから。

つまり、昆虫にも感情があるという可能性が出てきたわけです。

夜泣き疳の虫

という真理を照らし合わせた場合、夜泣く昆虫であると限定出来ます。

 

これらの条件を全て満たすことの出来る虫は、

ただ一種しかおりません。

それはコガネムシです。

コガネムシは金持ちであり、金蔵を立てたと古い文献にありました。

また、コガネムシは飴屋で水飴も飼っているところが目撃されています。

金銭を設ける能力を有し、

その金で蔵を建てたり、甘党なところもある。

 

推論すると虫のいい話、とは虫の、いい話だったのです。

カネグラを建てるほどに成功した、といういい話だったのです。

つまり、金蔵を建てる前は

虫の居所が悪い、ということだったのでしょう。

恐らく、金蔵の一階か二階はコガネムシの住居だったのだと思います。

快適な居所が確保出来ました。

疳の虫に触る、は缶に虫が触る

が発展した言い回しなのでしょう。

缶の中身は恐らく水飴。

泣き虫こむしはコガネムシの子供であると思われます。

缶が硬くてフタを開けることが出来ずに、泣いたのでしょう。

夜に親の目を盗んでこっそり水飴を舐めようとしていたんでしょうね。

こむし、とは子供の虫ということになります。

研究の虫といった熱中ぶりを指す真理も、

いかにコガネムシが汗水流して金を溜め込んだかが想像出来ます。

立て食う虫も好き好き

これは、水飴を立ち食いしているコガネムシに、

風俗のコガネムシ嬢達が群がり

小遣いをせがんでいたのだ、ということが

関係各位の証言で確認されました。

 

私の、この度のハエある受賞は

コガネムシなくしては有り得ませんでした。

この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます」

 

 

 

 

 

 

 

新入社員の早期退職を考える / 消えた帰属意識 / 各部店の事情

Title : レンガのように頑丈なヤツ

 

 

 

蜜菱銀行本店第3会議室、部長会議。

 

「今日お集まり頂いたのは、御存じの通り、

ここ5年、我が社の新入社員が

入社後3年以内に退職する割合が4割

にまで達したことを受け、人事部からの要請で緊急会議の招集となった。

各部店、多忙であることは重々承知してはいるが、

皆さんのお知恵を拝借したい。…加川クン」

 

「ええと。…人事部長の加川です。

無駄な時間を省くため、単刀直入に申し上げたいと思います。

新入社員早期退職の最たる原因は、

当行の肩書至上主義にあるのではないかと…。

とかく絶対視されがちな肩書に代わりうる採用基準、

これに関し、今日は皆さんのお力添えを頂きたいと

マア、こう考えたわけです」

 

「はい…。よろしい…でしょうか。ア、恐れ入ります。

ええ、ワタクシ営業3部田川です。

肩書に代わり得る採用基準、これはワタクシ、

走り書きに尽きるのではないかと。

営業部店は足で稼ぐのが基本中のキ。

悠長に座って描いている様な奴は出世しないぞと、

いつも新人にハッパかけとるんですがどうも…」

 

「総務の滝川です。

常日頃、各部店の方々から

種々雑多な要望を多数受け、対処しています。

窓口でも断るのに一苦労でして。

是非、能書きタレるのが上手い人の採用をお願いしたい。切実です。

能書きが天才的であれば、ほとんどの依頼を

ナンタラカンタラで却下出来るのではないかと」

 

「貸出融資等関係調整部の北川、…であ、り、ま、す、が…。

どうなんでしょうな、こういうのは…。

というのはつまり、こういうことではないの、か、な?。

つまりは覚書なんですな、これが!。

どうも、相対的に、貸し借りの管理があいまいというか。

何なんでしょうかね、エ?。

覚書事務の完璧な人、これっちゅうことなんでしょうかね結局のところが、

ですよ。実際」

 

「金沢支店から研修に来ている融資部の及川です。お世話になっております。

こちらに来て1か月、どうも案件が繋がらずに

デッドになるケースが多いと感じています。

拡大発展があまり見込めないケースが多い。

私の立場から申し上げますと、

一筆書きに長けている人材の育成が

急務ではないかなと危機感さえ感じています。

案件がブツリブツリと単発的に切れてしまわず、

こう、ササササーッと、繋がるような、

そういう人材を求めたいですね」

 

「システムエンジニア部のシャリマハ・ガンジーです。

皆さんの考えはどうでもいいのかもしれませんけども、ですね、

アアハ、ごめんなさい、

ワタシ日本語があまり得意ではないでしょうけれどもがですね。

上書き

これが欲しいよこちら側はですよ。

何度も何度も上書き。

どんなに疲れてヘトヘトになっても、

次の日には健康ピンピンしてやって来る。

そうゆう人

 

部長たちから歓声が上がり、

スタンディング・オベーションが巻き起こった。