モンキー園児1 / 優等生と劣等生の違い / PTAの線引き

 

 

 

うちのすぐ目と鼻の先に大層な利発(頭の良い)なノブちゃんなる小学1年生がいた。

母はボクに向かって「ああ、ああ。▽▽もノブちゃんみたいに勉強が出来て大人しい子だったら良かったのに」

と山芋を堀り上げるに必要な1メートル、それを超えるほどの溜息をつき、床にしゃがんで丸まったまま、茹でたボール一杯のシャコを食べる手を止めてしまった。

そんな母の姿より、ボクには産まれて初めて見る赤紫色の茹でシャコなる物体の方が実に奇異に映った。こんなザリガニは薄気味悪い。ズルズルと後ずさりし階下へ逃げる。

ノブちゃんは野球好きなため、日に焼けて丸焦げになった肌をしており、鏡モチのような真っ白肌をしているボクとは全く対照的な級長であった。ボクは日に焼けても赤くなるだけ、たちまち真っ白な肌に戻ってしまう男。

ゆえに、ボクの山猿ぶりを知らなかった商店街のオバサンなどは、ボクをナマッちろくて大人しい園児だと勝手にイメージしていて、

ある日ボクが大きなウシガエルを小脇に抱え(というより羽交い絞めにして)ランニングシャツ、半ズボン泥まみれ姿で道端をフラフラ歩いているサマを目撃、卒倒しそうになったそうだ。

このヒトはボクの身に何か大変な惨事が起きたに違いないと勘違いし、ボクの手を引き母の元へ連れ帰ろうとしたのだが、気味の悪いカエルを両腕で抱え込んでいるので仕方なくボクの後頭部を押しながら親元へと送り届ける。

「奥さん!、奥さんッ!。お子さんが大変よッ!!」

玄関口の緊迫した声に戦慄した母、転がる様に台所から躍り出る。今度は一体何をやらかしたのかッ!!。

「どうしたんですッ!」

「よく分からないけど泥だらけよ!。何かあったんじゃないですかッ!」

「▽▽!。何があったの?」

「これ。…。ボッ、ボッて鳴いてたから、何処に隠れてるかすぐ分かった」

「え?!。他にはッ?!」

「他にはない。これだけ」と寂しそうにウシガエルを両手で母に差し出す。

「捨ててきなさいッ!!」

 

話が脇道にそれてしまったが、ノブちゃんが利発であるというのは、ボクにはどうでもいいことであった。園児にも既に嫉妬の感情は間違いなくあるが、そんなことに嫉妬するボクではなかった。

ある日曜の昼、ノブちゃんがお父さんと道端でキャッチボールをしているのを見る。

ノブちゃんは真っ新(まっさら)な野球のユニフォームを着ていた。

野球のユニフォームというものはテレビで見たことがある。それを何故ノブちゃんが着れているのだろう!。

ボクは激しく動揺しながら自宅にとってかえし、洗濯機に突っ込んであった白ランニングをイスに乗って引きずり出し、父の卓上筆記箱から黒マジックをひったくると、ランニングの胸元にミミズがのたくった様なデタラメ模様を殴り書き(本人は英語のつもり)。

すかさず幼稚園制服からそれに着替え、あたふたとノブちゃん親子の元へ取って返す。

ボール行き交う二人の間に仁王立ち、腕を得意げに組んでふんぞり返るボク。

だが2人はコチラを全く見ず、まるで示し合わせたかのように、サッサと帰ってしまった。そういえば、ボクはノブちゃんと話したことがない。

「ノブちゃんと話したことない」と母に言ってみる。

「アラそう。この前、台風でどしゃぶりだった時、アンタが風呂敷マントで道の真ん中に立って、走って来たノブちゃんのお母さんに、何者だ名乗れーッ!!って通せんぼしたでしょ。お母さんズブ濡れになったって怒ってたじゃないの。口きいちゃいけませんって言われてるんじゃないの?」

そうなのか。全然知らなかった。初耳だが?。

ある夏の日。夕立の間中、ボクは沼でひたすらギンヤンマのヤゴ獲りに興じていた。

いつしか雨はやんでいて、ふと顔を上げると真っ黒な樹木群のシルエットの遥か上、紫色の黄昏が大きく大きく衣を広げている。

セミしぐれが降り注ぐ中、ボクは大量のヤゴを子供用バケツに入れ、意気揚々と家路をたどる。

すると珍しいことにノブちゃんちの前で会社帰りのオジサン ( ノブちゃんの父 ) に話しかけられた。

「おッ!。何が入っているのかな?」

微笑みながらバケツを覗き込んだ顔が徐々に暗い表情へと変貌。

「▽▽ちゃん。トンボは益虫といって蚊を食べてくれる良い虫なんだよ。だからこれは返してあげようね」

ボクは訳も分からぬままノブちゃんのお父さんに連れられて、先ほどまで半身つかっていた沼岸へ…。

既にお父さんの顔がほとんど見えないほど、辺りは暗くなっている。彼は静かにバケツの中の水と共に多数のヤゴを沼へ解き放った。

その時、遠くで雷が鳴った。

はっきり覚えている。あの音。園児でも。

 

◆写真タイトル / 日の当たる場所

 

 

絶食ダイエット(最終回) / 浪人生の絶食ダイエット / 体質改善はしたけれど

 

 

結局、総括としてボクの絶食ダイエットは成功し、大失敗な結果で幕を閉じる事となった。

70キログラムで開始された18歳プロジェクトは体重46キログラムで減量打ち止め。

冗談ではなく、止まらなければ死んでいた可能性が非常に高かった。

このプロジェクトは徹頭徹尾、医者の診断を一切仰いでいないので専門的な事は一切分からないが、過酷なダイエットを経験したイカレポンチの立場で偉そうなことを言わせてもらうと、

人間、食べられなくなった時が死ぬ時。

というお医者様のご意見(ラジオの深夜番組に出演していたお医者様のお言葉)は全くその通り、掛け値なしに嘘偽りござんせん。

23日間のダイエット期間でボクは24キログラムの体重を失った。

スマートになったという点では成功。

どんな服でも着こなせる憧れの体型を手に入れることが出来た。という点では。

しかし、全く素晴らしくはない。

ちょっと笑えばシワクチャの顔。眼尻にカラスの足跡クッキリこ。

アンタほんとに18歳?。

無理なダイエットをする人々の大半は、自分のぜい肉を憎み、それを捨て去ることに躍起となり、健康問題に背を向けてしまう。

そりゃチョットは影響出るんじゃない?、ベンピだとか?。なんて軽く考えてしまう。

人間の身体はもろい。強そうだが全く弱い。

赤頭巾ちゃん、どーか気をつけてネ。狼に狙われることになってるからネ。と警告したから大丈夫。と同じような感覚で、人は過酷ダイエットに船出する。

そこにとんでもない落とし穴が潜んでいるのに。

 

赤頭巾ちゃんより、むしろもっと危険なのは黒頭巾ちゃんの方だ。

黒頭巾とは鞍馬天狗(大佛次郎原作、時代小説主人公。剣の達人)のことである。

鞍馬天狗はいついかなる時に死ぬかも分からない身の上。

ゆえに死ぬ覚悟は出来ている。

ボクらは鞍馬天狗が死ななければノープロブレム、と短絡的に考える。

しかし、現実的には相当なストレスが鞍馬天狗の身体を蝕んで(むしばんで)いるはずなのだ。

胃ケイレンだとか胃壁出血だとか、神経症。肉体が傷つけられなければ良い、などというナマ優しいものではないはず。

鞍馬天狗の活躍を映画やTVで観ているボクらにゃ、そこんとこ全然分からない。気が付かない。

 

白雪姫(グリム童話に出てくるお姫様。

ディズニー映画で有名)っているでしょ。雪は白いに決まっているんだから、白は取っぱらって、雪姫だけでいいんじゃない?。

そうはいかない。白くない雪って、あるでしょう?。

人が多数行き交う道路の積雪。黒ずんだり茶褐色になったりね。

そこんとこボクらはいつも忘れがち。ストーンと抜け落ちちゃう。

ダイエット願望強すぎて痩せることばかりに頭がいっちゃって、健康破壊の恐ろしさに気が付かない。

絶食ダイエットなんて極端なことするからだ!とお叱りの声、ごもっとも。

チョコっとだけ弁解させて頂きますと(汗)、途中で自分の脳やら身体をコントロールできなくなってしまいまして、ハイ。

それは全く予想だにしておりませんでした。

脳も栄養失調になると正常に働かなくなってしまうんですねえ~。そんな当たり前のことすら、すっかり抜け落ちておりました。

 

絶食しているのに最初は全く体重が減らない。

体が必死で異常な状況に対処してくれているのに持ち主はそれを無視。

体が衰弱を始め、持ちこたえられなくなり悲鳴を上げているさ中、体重が減り始めたと大喜びするお間抜け野郎。若気の至り、で済んで良かったァーッ!!。

ボクは比較的筋肉質の体をしていて、割と体力があった方だと思いますねぇ。

体力なかったら死んでいたかもしれません。

拒食症ってホントに地獄ですよ。

地獄って皆さん簡単に口にするけど、いざ、マジで地獄に足を踏み入れたら地獄ですよ。ホントに地獄なんですから。

自分が死ぬ、ってピンときませんよねえ。

あり得ない。そんなことない。

ですよねぇ。

絶食で体力を失い、食事を摂取することも出来なくなったボクは、ダイエット後に更なる地獄の一か月を味わいました。

自分の体に食事を摂取させることに1日24時間を費やしました。

寝ては覚め、起きては摂取、不可能の。です。

それが毎日。

絶対に言う事を聞いてくれないダダッ子相手に何とか食事を摂らせようとする無理難題。

1日、今日はスプーンふたくちオカユが食べられた、口に入ったと万歳三唱する姿、理解出来ます?。

ギャグですよねぇ。でもギャグなんかじゃなかったんですねぇ。

生きたい!。その一念だけだったんですよ…。

 

体重計が46を指してから約50日後、何とか体が固形食料を摂取出来る状態にまで回復し始めました。

若さゆえでしょうか。それから一か月後にはダイエット開始前と同じ、普通に食事が出来るようになりました。

それから3年間、どんなに暴飲暴食しても太らない体質になりました。

寝る直前に食べようが間食しまくろうが体重60キログラム、平均的数値です。皆さん憧れのバラ色天国!。

 

その後、食べれば食べただけ太る。

というごく普通の体質へと完全復帰してしまいました。

つまりは、ボクの身体の全機能が完全に、正常に機能出来るようになったのだと確信しました。

そうなったことに感謝、感謝感激アメアラレ!。

食べたら食べただけ太る。その当り前さに涙が出ます。

もちろん、嬉し涙です。

 

因みにボクは志望校3校全てに合格。

死ぬ気になれば何でも出来る、が勝因でした。

 

担任先生の逆立ちして校庭一周、まさかの掟破り。

 

 

 

◆写真タイトル / これ好き!今食べる、すぐ食べる!! (カツ丼)

 

 

 

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(23) / 浪人生の絶食ダイエット / 108つのボンノウ

 

 

松茸のお吸い物、トマトジュース。

目覚めた瞬間、ボクはデクノ棒なのにブブカ(オリンピック棒高跳びで7回金メダル)の如く激しく跳躍、我が身のブザマな転倒もなく華麗に着地したソコは近所の食料品店。

そんなことを夢想する程にボクは衰弱している。

何とかしないとマジで命が危ないので、飲料水から栄養を摂取する大作戦を展開することに。

昔から慣れ親しんだ味と成分なら身体にも免疫(?)あるのでは?。きっと成功するだろう。

まずトマジューをラッパ飲み。ゴクリン、ゴクゴクリン。

うあーはっはっは!!、どうだ見たか!!、拒絶も出来まい?!、ガンガン入ってくぞ!!。

アッと言う間に500ミリ完飲!!。

少なくとも何がしかの栄養分は摂取されたわけだ。トマトは緑黄色野菜だからねえ~。味覚は鈍感になっている様で美味しさ等ほぼ感じない。

ウォプ!!

飲み終えて約1分、こらえ切れない吐き気!!。たッ大変だ、マッハでトイレに行か…

オエエエエエエエエエーッ!!。

全部排出。ダム排水

。怒涛の排出、吐き始めてから吐き終わるまで、その間僅か1.5秒。

その瞬間にボクは見た。

トマジュー滝に美しい虹が架かるのを。

畳に付いた両手、両膝頭のパジャマぐっしょり。ひえええええ…流動食ダメなら最早お手上げジャン!!。

お終いだあ、もう駄目だあ…。

ふらふら起き上がり台所で雑巾を調達しなきゃなら…、

ドッサン。おったまげメマイで転倒。

オオ!美しき赤きドナウ!。素浪人、吐いたトマトジュースの湖に死す。

小学校の夏休み、私鉄線の全駅巡りスタンプ・ラリーを達成して景品に茹でタマゴをもらったことがあったなああ…。

今、再び自分はトマト朱肉で自らにスタンプ…。愚か者という刻印でしょう、多分…。

 

真昼のシャワー。洗濯機上に置いたパジャマを見たのであろう母の叫び声、

「アンタ、血を吐いたのッ!!。大丈夫なのッ!!」

「トマトジュ…」

大きめの声を上げる体力なし。「大丈夫なのッ!!」

「だい、じょぉぶだよぉ…

バスタオル巻いた姿でキッチンチェアにへたり込む。

「温ったかい吸い物で試してみたら?。胃を温っためれば大丈夫なんじゃなあい?」

湯気立ち上るお椀を手に、再び浴室入りするボク。

全裸で風呂椅子に座り両手でお椀を後生大事に支え持つボクはネアンデルタール人。

現代人から退化する極めて稀なケース。

ラッパ飲みして胃が仰天したんだろうから、今度はチビリチビリ飲む。

初めて猫舌であることが役に立ったわけだな。

全裸なのは再び吐くことを想定しての事。5分程かけて松茸の吸い物なる点滴投与を完了。

あとは様子見。

 

10分くらい?。大丈夫そうなので出る。

もう一杯飲んでも大丈夫そうなので母にリクエスト。

「ええ~?。大丈夫なの?。もう絶食やめたら?」

まるで何も分かってない。まあ、ボクが隠ぺいしてるからなんだけどもネ。

四苦八苦、という言葉がある。4989と置き換えられる。

4✖9=36 8✖9=72 36+72=108 108つの煩悩(ぼんのう)。

 

結局この日はお吸い物2杯で就寝。

唯一の大きな安堵は体重。49を維持。

脳は絶食中止を認識してくれたのだろうか。

怒りが収まって許してくれかけているのだろうか?…。

体力温存目的で夜12時就寝。あり得ない程、早い。

 

明け方、急激な吐き気で覚醒(意識を取り戻すこと)、ウワッたいへ…

布団に吐く。

といっても少量。

吐く物もないのに吐き続けるため胃ケイレンを起こさないかと心配になる。

大丈夫だ大丈夫、と自身の胃を涙ぐましくも励まし続ける。

ハッ!。

ふとイヤな予感がして体重測定。

48。

 

一夜にして白髪と化す戦慄って、もしかしてこんな感じ?。

 

◆写真タイトル / 気配なし

 

 

絶食ダイエット(22) / 浪人生の絶食ダイエット / 死神を呼ぶ拒食症

 

 

ボクの胃袋は一体どれほど小さくなっているのだろう。

通常のお守りくらいだったりして、と想像するが笑えない。( 笑えたならシワだらけの笑顔。

それが今のボクの顔。さっきもそれ見た。作り笑顔で… )。

トーストをほんのひとくち食べただけで超満腹になってしまうのならお守りどころか目玉位ではないだろうか。絶食前には全く想像だにしなかった、哀れきわまりない抱腹絶倒状態である。

親にも友達にも極秘にされたボクの崖っぷち、たった独りの意味なし現状。それでも拒食症についてググるつもりは毛頭ない。

恐い。異常に恐い。同じ理由で医者に行く気もない。

恐い。もうダメ。何もかもイヤ。

 

何とかなるはずだ。自力で解決出来るはずだ。元の状態にまで必ずや戻せるはずだ…。

根拠は?。根拠など有ろうはずもない。

ただ、何とかなるんじゃな~い?、というありがちな楽観主義。

甘やかされた自己がいとも簡単に打ち出す最強の方策、それが “ 何とかなる ” 作戦だとは!。

うあーはっはっはっは!!。語るに堕ちたと自虐笑いがひとしきり、それが覚めれば即座に最近売り出し中の死神笑顔。

 

午前中、洗濯物を干している母の眼を盗み、すかさず冷蔵庫を開け食べられそうな品を物色。チーズを見つけ素早く自室へ退却。

包み銀紙を掻きむしり現れた石鹸(チーズではなく石鹸に見える)を口に投入。

されてない。

入らない。

チーズが口に入らない。

またもチーズ持つ手は口前で門前払いをくらった。

脳は既に持ち主であるボクを完全に見限り、一切の命令に従おうとしない。

再三にわたる自殺行為にすっかり愛想尽かしてブンムクレ~、なんて可愛らしいものではない。自分の脳に冷たく絶縁されてしまったのだ。縁を切られてしまったのだ。

だって考えることが出来るんだから縁切り状叩きつけられてないジャン?。

違う。

脳内各部署作業員全員に絶縁されたのではなく、生存本能部門の食欲科に携わる者達に愛想を尽かされたのだ。

このように1時間もかけ、口の中に一切れのチーズを押し込もう、ネジ込もうと絶望の努力を続ける愚か者の図がネットで世界配信されたなら、一体どのくらいのアクセス数が得られるのであろうか。

ヨレヨレのパジャマ姿で背中を壁にもたせかけ座り、息も絶え絶え、死ぬぅぅぅぅ…。

お願いですから神様どうかこれ以上の体重減だけは勘弁して下さい。

食物が口に入らないだけで本人は食事復活させるつもりで努力しているんですから、どうかお願いしますお願いしますアア何たる皮肉だ。

あれほど痩せたがっていたはずなのに、今度は痩せるのが恐ろしいなどと!。

だがその恐ろしさは半端ではない。

何とかなる、なんて感じは全然ない。

想像出来る?。自分の脳が自分の命令に、意志に、頑として従わないなんてこと、想像出来る?。

あり得ないでしょ?、笑っちゃうでしょ?、ギャグでしょ?、冗談でしょ?、夢見てんの?。

一歩も外出せず、ひとくちも口に出来ぬまま夜。悲痛な願いも空しく

 

49キログラム。

 

口の中がカラカラ。いくらコーヒー飲んでも水飲んでも、電解質摂ってもダメ。

口が開いたまま固まってゆくこの感じ…。

ああそうか。

 

 

死体だ。

 

 

 

◆写真タイトル / 幸せな景色

 

 

 

絶食ダイエット(21) / 浪人生の絶食ダイエット / 拒食症への招待

 

 

ボクからの唐突な電話に少々面食らった親友ではあったが、

今日久々にお茶することに同意、高校時代によく通ったジャズ喫茶サテンドールにて待ち合わせの運びとなった。

 

相変わらず薄暗い店内。♪  テイク5 が素晴らしい音源で流れている。

ジャズを聴く場所であるはずだが誰も聴いてないので、ボクも5小節目あたりから聴くのを止め、友(以下、トモと記す)との会話に本腰入れることにした。…のではあるが、

店内は大学生達のワワワワー!、ウワッ、オワワワワワーッ?

の熱気帯びたドンチャン・シンバル会話で激しくカシマしいーこと甚だし!。確かに、その方が静寂よりは遥かにマシではあるのだが…。

絶食による体調異変に戦慄したボクは眠れぬ一夜を過ごし、ただでさえ頼りにならないヘナチョコ身体にムチ打って、市外から市内へのバスに乗り込んだという切羽詰まった小旅行な次第。

今日から栄養摂取を始める!。もう絶食は終わり!。金輪際しない!。

とにかく直ちに何が何でも健康な美しくキラめくティーンエイジャーの本来在るべき姿に復帰するのだ!。

トモに会ってノリノリ話せば気分も昂揚、食もすすむに違いない!との考えから1時間半、トモをダシにバスに揺られてコンニチタダイマ、此処まで何とか到達した訳なのである。

懸念されたメマイでブッ倒れーッ!!、を最も恐れていたボクではあるが、それは気力でどうにか回避出来たようだ。

目の前にあるアイスコーヒーのグラスも時折かすむが、それは暗い店内、席立ち座る慌ただしい大学生らの、漆黒で長い影が幾度も壁の間接灯を遮る(さえぎる)からだと自分にムリムリ言い聞かせている愚か者。

「トーストでも頼もうかな。お前は?」とボク。

「オレはいい」。

何度も手を挙げるがウェイターがこちらを見ない。わざわざソッチへ行くのもガヤガヤ大学生溜まりに阻まれ億劫デス。

イライラ、プンプン、そんなこんなしているうち哀れなボクに気づいた大学生のオニーチャン、

「こっち、呼んでるよーッ!」と頼もしきかな大きな声。

「ありがとうございます」と礼を述べるはボクの笑顔。

「別にいいって(笑)」

さりげなく注文終えてひと安心。よしよし、これで遂に栄養分補給の幕は切って落とされましたよと!。

ヘヘヘ、にしてもトーストとは又シンプルな!。いやいや、これは眠れぬ頭で決めたこと。そのへんからがチョード良い。財布にやさしくチョード良い。

 

「タクロー(自宅浪人)なんかで大丈夫なのか~?」

「大丈夫だよ~」

 

トースト待ちで気もそぞろ、内容なきパラフィン会話に終始する食待ち顔のボク。トモは別段気にも留めてない。流れるジャズに身を任せ、軽く半身で拍子をとっている。

「何?。暗いね~キミら。見ない顔ジャ~ン?」

いきなり女子大生に肩を抱かれド肝抜かれるボク。キョトンとするトモ。

「く、暗いですか」と声がうわづるウブな絶食マン。

「分かんないけど、…ところでアレッ?!、どこ行ってたのアタシさっき…」と突然立ち上がり仲間のところへ人溜まりかき分け消える女。

 

「お待たせ」。ガタリと安物テーブルを響かせる皿の音。トーストが1枚、斜め半切りで乗っている。脇に小さなバターカップ。

「何だよ~、バター自分で塗るんジャーン」とボク。

「当然だろ」

哀れ、必死に固く凍ったバターをナイフでかき出してはトーストに強くこすりつけるブザマなボク。塗るの無理でしょ、トーテイ。

熱いトーストにナイフ滑らせれば、たちまち溶け出しては芳醇なる匂いを立ちのぼらせる魅惑のディーバ、その名はバター、などとは程遠い。

ふと気が付けばトースト半分でバターは打ち止め終了。何だとッ、残りは何もつけずに食べろってか!。

「まずそ~。頼まなくてオレ正解(笑)」と再びジャズに身を委ね目を閉じるトモ。

まぁいいや。今は味より栄養補給。それさえ出来ればひとまず安心。帰りに例の店で美味しい調理パンを5つ6つみつくろって帰ればいいんだよ。カレーパン、ヤキソバパン、卵パン、とか片っ端!。

でも今はコレ。このトーストが手始めだ、さあ、食べよッ。サッと持ち上げ口でパク!。

 

のはず。

あれ。

口の正面

口から15センチ。

入らない。

あれ。何だコレ。

口が開かない。

 

何が起きているのか全く理解出来ないフリーズ状態。

判断がつかない。何コレ。は?…。

トーストつまんで持ち上げたでしょ?。ですよねぇ?。

それでソレを口まで持ってって、それでパクリ、でしょ?。

そ~ですよねぇ~?。ボク何か間違ってます?。え?。何?、何よ。

 

まるで磁石の同極。トーストの角を口に真っすぐ運ぼうとしている。

しているのに

手とトーストが

口の前15センチで

微動だに

硬直化。

 

「何やってんだよー。……それギャグ?。何のギャグ?」とトモ。

 

文字通り頭の中がマッ白白。

自分の身に今、現在進行形で起こっているこの事象は一体何?。パントマイムする気サラサラないんだけど。

 

?  ❓  ?     ?       ???????????

 

ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 

突如、頭の中で電子音。高くもなく低くもないその音。

何が。ん?。何がどうしてどうなった。ん?。何なの?。

こういうのナシにして。今度こそ!。

意を決して無理矢理にでもねじ込む覚悟だ!イケッ!!。

 

入らない。

 

電子音は継続している。スイッチの場所、切り方、分からない。

全身が突如として熱を帯び始める。カァッと熱い、暑い、蒸し暑い!。

 

「何かここ蒸し暑くないか?」

「いや。全然。それより早くソレ食えよ。イライラすんだろ、オレが食ってやるよ~」

トモはバターが塗られていない半分の方をサッと手に取ると背もたれに寄っかかり、天井を見上げながらバリバリと豪快に食べ始める。

今だッ!!。コッチもこの機に乗じて食べてしまえッ!!。

うううう動かない……。

手が宙に浮いたまんま動かない。

トーストが動かない。

何だコリャ。皿に一旦トーストを戻す。ハアハア!!。

「ソレ食わないの?」と既に食べ終わったトモ。

「食べるんだよッ。今からなッ!」

苛立ちながら再びトーストを持ち上げ素早く口に運ぼうとするボク。

全身全霊、満身の力で手を動かす!!。

動かしているんだよおおおおう!!。

ちきしょう!!、分かったゾ!!。脳がストップかけてんだろ!!。

食べるんだ!!、皆に命令しろッ!!、コレを食えッて皆に言えッ!!。

己の脳に命令するボク。これは絶対命令だと。至上命令なんだと!!。

 

はははははははははは、 入った!!。ほんのチョビットだけ入った!!。

1チャンス!!。ものにしろ!!。早く噛め早く!!。しっかり噛め!!。

胃に絶対負担をかけないように、完全に噛み倒せ!!、

そして速やかに2口目を口に挿入しなければならないんだから早く早く早くッ!!。

もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐも……………。

 

トーストの味?。味ってどういう意味だっけ?。

コレ。味ないけど。

今、噛み終えたトーストが食道をば通過中

。え。あれ。

ええ?。

 

突如こみあげる凄まじい満腹感!!。それは食べ過ぎで腹が今にもハチ切れてしまいそうな程!!。

食べ過ぎで吐き気がする!!。

って冗談ザーマショ?。ここは何処だローマ時代ってか?!。

食べては吐き、吐いては食べの美食帝国か?!。

はあはあはあはああああ~っ。

全身脂汗!!。

食べ物が体内に!!。体内に侵入しただとッ!!。

何てことをしてくれたんだ貴様はッ!!

と全身体部署から猛烈、激烈抗議が殺到!!。

流石にボクの様子が変なのを察知したトモ、ちょっと驚いたように

「何おまえ、どーかしたのか?」

 

どーかしたどころではない。恐怖の戦慄が

 

今始まった。

 

 

 

◆写真タイトル / 生き止まり

 

 

 

絶食ダイエット(20) / 浪人生の絶食ダイエット / 生きることを放棄した脳

 

 

 

絶食ダイエット15日目。

朝10時に起床。夜更かししてラジオの深夜放送を聞いていたら眠れなくなってしもうたのだ。

それというのもカーペンターズの大特集をやっていて、カレン・カーペンターが過酷なダイエットを敢行した挙句に拒食症となり、遂には亡くなってしまったという話を聞いて心底凍りついてしまったからだ。

クワッ!と目を見開けば闇。

途方もなく限界のない大海に独り、小舟に仰向け、これは確かに例の噂の渡し舟!、の気分。

自分も死ぬのでは?!、という至極当然な感想が得られる。

止める。もう止める。絶対止める。

重く鈍い頭で、ヤドカリが新しい貝殻に移行する時に見せる静止を賭けた慎重さをもって布団から這い出てゆく。

「私は死にたくないのです……死にたくない…」

などと半分おふざけで呟いてはみるものの、立ち上がりかけて凄まじい眩暈(メマイ)、そのまま布団に受け身も取れずにブッ倒れる!。

しばらく仰向けのまま天井を見つめる。頃合い伺い、大丈夫そうな気がするので少しずつ起き上がろうと試みる。

もはや気分的なものではない。

明らかにこの体は危険な状態にある。医者でなくても分かるものは分かる。今ボクを診察して「問題ありませんね」などという医者がいたとしたら、それは絶対にヤブだと断言出来るほどの危うさだ。

部屋を出る。台所が薄暗い、テレビの音が聞こえてこない、ということは母外出中。

父母揃って進んだ放任主義、と日頃から高く評価していたこのワタクシであった。

あったが…。何故ここまで危険な状態に至るまで放置していたのであろうか!、などと逆恨みしつつ、遂に絶食ダイエット開始初、全裸となり玄関壁の姿見の前に立つ!。

少ししか痩せてない…。何だよこれ…。

既にボクの脳は正常な判断を全く下せない状況下にあった。

むろん、この時のボクはそれを知らない。

もう十分に痩せていたのだ。

肉体的機能の凄まじい低下はハッキリと認識出来るものの、まさか脳が栄養不足で半死の状態であるなど夢にも思わなかった。だって、ごく普通に物事考えていられるから。

薄暗いキッチンのイスに座し、しばし呆然と時を過ごす。

体重を計ろう。そうだそうだ。

もう。絶食は止めた。んだから。夜まで待つこ。とないんだよ。な。そうだそ。う。だ。今計っ。………てし。ま…

無重力でありながら上からガッツリ押し付けられているような。何とも奇妙で薄気味悪い感覚がある。

それを感じながら酷くコッケイな猫背状態でそろおおおり、そろおおおおり、と体重計まで移動。

一旦呼吸を整えなければ台座に乗れないとは何事だ

。死ぬ。もう死にそう。

昨日外出した時は別段なんと。もな。かっ。かっ。たた。………。測定………。はい…………。目がかすむ。少々お待ちください……。

50。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…

50。

 

産まれて初めて死を実感する。

これほどまでの恐怖を感じたことは後にも先にもたった今、この時だけに違いない。

オチャラケ浪人生の軽いダイエットのはずだった。

それにしてもインチキだ。急に、突然どうしてだ。

いきなり重病人て、そんなのありか!。ふざけんなッ!!。

と突然、身長100メートル程の巨人がボクの頭を軽くつまみ、チョコリとだけコマの様にひねりを利かせたらしい。

ボクは大きく上半身フラフープでもするのかしらね?、と思うと同時、その場にブッ倒れてしまった。

 

絶食ダイエット15日目、午前10時過ぎ。体重20キログラム減。

 

死が目の前に、居る。

 

 

 

◆写真タイトル / 川が見え。る

 

 

 

絶食ダイエット (19) / 浪人生の絶食ダイエット / 判断力の欠如

 

 

 

絶食ダイエット2週間目。

起床と同時にあたふたと洗顔歯磨き、迷わず台所でコーヒー。

ゆらありと現れる母、「勉強してんのアンタ」と恨めしや。

「今日から始動します」と素っ気なくボク。

いえいえ嘘ではないのです。いい加減に勉強始めないと不安で仕方がなく、その重圧たるや子泣き爺に捕まった旅人に等しく…。

溜まりに溜まったラジオ講座の英語授業を聴きながらモクモクと受験勉強に励む姿はドーヨ。

しかし時折、目がかすむ。アレ、何だこの曇り。コンタクト無き両目をゴシゴシ。

何とか回復するも、これまでにない現象。

ソレが何度か起きたものの、気が付けば5時間ノンストップで勉学特急!。

やったネ、この調子でイケば楽勝合格かもーと立ち上がった瞬間、あたかもテニスプレイヤーがサーブ打とうと大きく振りかぶった時のように大きく部屋が斜めに回転、ボクは冗談のように畳の上に勢い込んでブッ倒れェ~!!。

何だコレ。

何だ今の。

全身に底なしの疲労感が湧き上がり始める。そしてソレは止まらない。

何だか…。理屈抜きにマズイかもしれない…。

これ以上の絶食は…。

 

目覚める。畳の上で眠っていたようだ。

小雨が降っているが気分転換にムリムリ外出することに。行くアテもなく歩き出すが、カフェでお茶がいいかもねと繁華街の喫茶店へ。

雨の匂い立ち込めるアーケード、行き交う異性をチラ見してしまうお年頃。カノジョにするならドノコがいいか、恋人ならばアノコがいいか。手前勝手な空想しているうち、すれ違う女性と目が合ってしまった。

慌てて伏目、狭い階段上がって喫茶店。

ウゥ~ン…。やっぱりサー、もうちょっとだけ痩せた方が恋人ゲットの確率上がるんじゃないのぉ~?。どうしよっかなぁー ”。

しかし、さっきのメマイが気にかかる。頑張ったからってブッ倒れるのはあり得ない。

恐いからヤッパ絶食は止めにしよーと久しぶりにメニューのランチに目を落とす。エビピラフにカニピラフか。

ん?。キノコピラフ…。う~ん、いいねえ。

「お決まりですか」の声に

「アイスコーヒーとキノコピラフ」

おおおお~。つッ、遂に、食べ物を頼んでしまったじゃないのよー!!。

2週間近く何にも食べてなかったから、さぞかし旨いは必須。

ここで食べたことないけど普通の味だってイジョーに美味しく感じてしまうに違いない。

「お待たせしました」

見ればシメジと卵がしっとり息づくライトブラウンな良いピラフ。

「ミルクはお使いですか」の声に顔を上げ

「使います」

何気に視界に入った彼女の顔にハッと息飲む素浪人。可愛い綺麗美しいトビ色の目が涼し気カノジョにしたいデートしたい映画観たい一緒にどうですか来週ヒマありますかETCetc。

急に絶食ダイエット再開が決定する。誘うまでにカッコよくなってなきゃなんないジャンけ。

アレ、彼女ドコ?。

ああ、アソコかあ…。

結局、ピラフは一口も食べることなくレジに。

けげん顔なオバサンに多少緊張しながらの支払い。

合格しなきゃデートなんて夢のまた夢。分かってるってば。

 

つまりは14日目も完全絶食。夜11時、恒例の運命儀式!。測定ッ!。

54。  54キログラム。

2週間目で体重16キログラム減!!。

 

 

 

◆写真タイトル / 予兆

 

 

 

 

 

絶食ダイエット (18) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳機能の低下

 

 

次第に当初の目的からガタゴト逸脱。

チョットあんた、浪人生なのに何やってんの?、と四六時中も自責の念。

絶食ダイエット13日目。

今日で終わりなんだから、と言い切れない自分が恐い。

やっぱり少し変。いや、かなり変。?。

脳が正常な判断を下せない状態にでもなっているのだろうか?。

急に不安。凄く不安。

発作的に勉強机に着席。

脳がマトモに、人並みに働いているか試してみなければ、と豆タン(手のひら大の英単語辞書)のページを適当に開き、まだ暗記していない単語をチョイス、ノートに筆記。

「VICTIM、犠牲。VICTIM、犠牲…」

と意味を口に出して呟きながらボールペンで何回も何回も繰り返し書き続ける。

大体ボクの単語暗記法はこんな感じ。大学ノートA4に1単語を5行。そこで次の単語にチェンジ。

そんなことを取りつかれたようにパジャマ姿で2時間。指が腱鞘炎(けんしょうえん)気味になってきたので終了。

壁に張り付いているナメクジをジワッとはがすようにペンから指を1本づつ。

ひええ。久々の勉強気分で後ろめたさが多少軽減。

「はぁぁぁ~、お疲れ」

真昼どき。

「ちょっと散歩してくる」

「あ、じゃぁ帰りに大根とキャベツ買ってきて」と母にパシリを命じられる。

通りに出ると5月の太陽光が閃光の様にボクの目を射抜いた。

やけに眩しい(まぶしい)。鋭い。

目を一本線のように細めフラフラと歩き始めると、カラッポの胃の中に雨上がりの湿った空気がヒウッと流れ込むのが感じられ、何だかいいようのない虚無感にとらわれる。

こんな時のボクは、いつもなら迷わず焼きそばパンと卵蒸しパンのセット食べで気分を発散させるのだが、当然それは今ご法度。日頃、いかに自分が間食摂取でストレスを消化排出していたのかという事実に気づき、しばしボーゼン。

白いテリヤを連れた女性とすれ違う。犬がボクを鋭利に見上げ、突如けたたましく吠え始める。

「アウアウッ!!、アアウッ!!、アーッ、アアウッ!!」( バカかお前は!! )

ふん。そんなこたぁ~言われなくても分かってるツゥの。

 

しかしマジやばい。

痩せる誘惑の勢いに圧倒され身動きの取れない今の現状は、マジやばい。

仕方ない。勉強の遅れはモーレツガリで取り戻すしかない。絶対そうします。

必ずガッツでやりますから今だけカンベンしてくんなまし、と独り頷きながら八百屋の前。

大根が半分切りで68円。半分でいいんだろうか。

キャベツ半分切りで108円。2つ買うといくらだっけ、ええと……………。

まず、100円+60円で160円。これに端数の16円を足すんだから合計は………………。

合計は、ええと………………………。

178円、違った176円。

ゆっくり血の気が引く。

こんな足し算に一体どんだけ時間がかかっているのか。

「ハイ、何差し上げましょ!」と八百屋の顔見知りオバサン。

「ああ。…母はいつも大根とかキャベツとか、半分のを買ってるんですかねぇ」

「ウーン!。1個売りのホー」

「じゃ、キャベツと大根の丸を下さい」

「あいよッ」

 

 

夜11時、入浴前の体重測定。多少苛立ちながら即、乗っかる。

56kg.。

 

56……何だっけこの数字。

 

 

その時、初めて測定針がボクにささやくのを感じた。

 

コレヲ、見ロ。

 

ほほおおおおおおおおお~。突然、自分が今、何をしていたのか理解する。

いきなり上機嫌となるボク。

 

これはボクの体重です!!。

 

 

 

◆写真タイトル / たちゆかぬキミ

 

 

絶食ダイエット(17) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体の防衛機能の限界

 

 

絶食ダイエット12日目。

ほとんど眠れず一夜を明かす。

朝7時過ぎ、トイレに行こうと部屋を出頭ら(でがしら)、登校する弟とハチ合わせ。ヤツは慌ただしく靴履きながら

「兄貴。さっきオフクロがねー、眠ってる兄貴の顔見たら死人みたいな顔だったって言ってたよ」

鼻先で閉じられるドアをしばし見つめ立ち尽くす亡霊兄。

 

奇遇だ。実は昨夜か未明か分からないのだが、ボクは三途の川の渡し船発着所で整理券を受け取っている夢を見た。

「アナタがエンマ様ですか」

「突拍子もない。大王がこのように現世に近い場所までお出で(おいで)になるはずもあるまいに。タワケ」

その者の顔は暗くて全く見えない。

明かりが灯っているのに何故だろうと、ボクは自分のパジャマを見下ろし仰天。

紐に吊り下げられた洗濯物の様に、パジャマの下に中身なし!!。

明らかに今、ボクがこうして身に着けているというのに!!。

これは大変な事になった、のっぴきならない状況だぞと青くなり、顔なし男に

「ボク、引き返して帰ります。そこの道を戻ればいいんですか」

「ダイエットに戻るのか。死にに帰るのか。もう此処にいるんだからリフレインするのも面倒じゃない?。マ、どっちみち此処に戻るんだから別にいいけ…

目が覚める。

普通ならゾッとする反応が通常かもしれないけど、そこは美しい10代。

さして深く考えることもなくヒトコト、

「変な夢」

即忘却の彼方。

しかしながらだ。母の言葉を重ね合わせると流石に心に暗雲立ちこめる。これは予告だろうか、暗示だろうか、啓示(神の声)なんだろうか。

やや青ざめながらフト気が付くと体重計に乗っている。シマッタ!、計測は1日の終わり、すなわち今夜11時過ぎなのに!!、と舌打ちしつつ目を落とす。

 

58キログラム。

 

頭空白。真っ白。

その瞬間、ボクの周囲の全てが静止した。

頭の中をツーンと、人間が聞き取ることの決して出来ない周波数音が真っすぐ貫通、ほどなくそれは台所の壁まで直線進行、やがて壁の中に消滅。

「バンザーイ!!、バンザーイ!!、バンザーイ!!」

体の芯から湧き上がってくる無上の歓喜!!。得も言われぬ衝撃波Q (クェスチョンのQ) がボクの両腕を引き抜く程V噴射させる!!。

ビクトリーのVだ!!。VIVAのVだ!!。

脳ミソさん、今までホントにありがとう!!。

キミにつらく当たったこともあったけど、アレは本気じゃなかったって分かってくれるよネ?!。

ジャスト60キログラムで最終日を終えるはずが、何と何と一気に3キログラムも落ちるとは?!。

バンザイ!!、バンザァーイ!!。

「うるさいわねェーッ。近所迷惑でしょーが!」と母の声。

 

下痢が理由か、はたまた新たなるパターンの到来か?!。

それを確かめるためには明日もう1日だけ!!。

 

絶食を。

 

 

◆写真タイトル / まっしろ ( 調理 / カモノナカ )

 

 

絶食ダイエット(16) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体免疫力の低下

 

 

絶食ダイエット11日目。

自分が既に10日も食べ物を口にしていないという事実。

これって凄いことなんだろうか。大したことないんだろうか。

サッパシ分からなくはあるものの、何故だか起床と同時に浮かぶ顔。中学2年間、憧れ続けた高嶺のキミ。小麦色に日焼けした美しい顔、やや片目に被るサイドへ流れゆく前髪。それをアンニュイにカキ上げる仕草に、悲恋な我が身とっぷり哀れみ唇噛んだことも…。

高校進学で別々の学舎、ホントに手の届かぬキミへとなりぬ。んでもって、高校3年時に風の噂。彼女が高校のミスコン女王になったってさ。へええええ。そうかあああああ…。

こないだマブダチらとお茶した時、その彼女が髪を茶髪アフロにしたって情報。

「嘘コケ」

「コケェ、コッコウ。全力マジ。極マジ」

「何でだよう~」

「何か悪い連中と付き合ってるみたいな。噂だけどな」

 

人は変わる。チョットと変わる。劇的に変わる。外見的に変わる。内面的に変わる。

色々あるけど、今のボクは外見が変わるってヤツ。その試練中。

劇的に変わるはずだったのにチョビッとだもんなあ。少ぉぉし涙ぐましい気分だよ。トースト色に日焼けした彼女の顔に茶髪アフロ…。似合うのかなあ。想像つかないなああああ。

今日は朝からやたらと劇的に喉が渇く。冷えた麦茶をガブ飲みしても一向に渇きが癒えない。

ジレて外出、近所のコンビニでスポーツドリンク1リットルを購入、ガブ飲み。

2時間後、突然、♪ 吹けよ風、呼べよ嵐 (ピンクフロイド) の不穏なイントロダクションが始まり出し、10秒後、得体の知れぬ壮絶な下痢ウェーブの脳内アナウンス!!。

転がる様にトイレに爆走したい気分で、ゆっくり、のろおり、のろおりとトイレへ。慎重にスローモーにやらないと一色即発。そうなることは火を見るより明らかなのだ。

その夜は正に地獄のヘル・ナイト。

どう考えても尋常ではない下痢状態。

いくら水分摂取過多だったとはいえ、水アタリ、だとか腹冷え、といったレベルではないのだ!と両親に訴える。

何度もトイレと自室を往復、過酷な下痢ぴょんキャラバン続けるボクに、救援の医者が夜9時あたりに到着。

ボクは “ 大腸カタル ” である、と!。

風邪のウィルスが腸に入って発熱したんだと!。

確かに全身が燃え上がる様に熱い!。体温計は41度を掲示。

ひぇぇぇぇ~ッ!!。

「病状が安定するまで食事は摂らない方がいいでしょう」と医者がボクの枕元、両親に告げる。

神妙に頷く2人。カタルに落ちた、とは正にこの事だ!。

両親はボクの絶食を医師には伝えず彼を帰した。

この病気とボクの絶食は因果関係が有るや無しや!。

ボクも尋ねなかったのだから両親のことを言えた義理ではないのだが。何となく言いそびれてしまったのは、やはり罪悪感が有るってことなのかもしれない。薬を飲み、やっと下痢は小康状態。少しホッとする。

んんんんん~ッ!!。待て待て待て!!。これだけの下痢だ!。もしやして劇的に体重が減っていやしないだろうか?!、とフラつきながら、ヘッピリ腰で体重計!!。

61キログラム。

きっかり1キログラム減。

「このロクでもない1日1減は一体何なんだ!!」と爆発激高した途端、ア……。

またもッ。そろおり、そろおりと…参ろうか…。

 

 

◆写真タイトル / 追想