進軍園児 / ランキングを外れても

久しぶりに幼稚園に行くとクラスの男子幼児3人がワッとボクの周りに集結。見覚えのないその者達は口々にまくしたてる。駄菓子屋で買った菓子を上機嫌で舐め上げていると隣町の園児に取り上げられて恫喝(どうかつ。脅し)された。お前ならアイツを倒せるに違いないから、帰りに自分達と隣町の幼稚園までリベンジに行って欲しい。そして待ち伏せしソイツをイジメて欲しい、ということらしかった。

「それはどんなお菓子だったか」とボク。「ねぶり紙だよ。3つも取られた」との返答。アレか。ドギツイ赤、緑、黄色のチクロ(合成甘味料)が横4センチ、縦20センチほどの硬目の短冊紙に塗り込んであるヤツだな。

前に1度、家の近所で井戸端会議中の母とオバサン2人に呼び止められた時、オバサンの1人が「アアラ、美味しそうな物を食べてるねー。何ぁに?」と聞くので1枚分け与えたことがある。あまりにボクが噛んでみせてくれとセッつくので、仕方なくオバサンAはペロペロッと舐めてみる。「甘いわね」。それを正面から見たオバサンBが「アッ!、奥さん、舌が真っ黄色になっちゃたわよ!」。帰宅した母に恥かかされたと大目玉をくらうボク。くらいながらボクの幼い心に去来したものは、案外オトナは物知りでないという啓示であった…。

ボクは日頃全く付き合いのない同僚たちに頼りにされ全く持ってつけあがってしまった。「いいよ。行く。やっつけてやる」。

桜前線終盤、散る桜小雨の中、厳しい表情で進軍するヒヨコの一群が川土手からバードウォッチングされた。目指す敵地は大人の足なら10分といったところだろうが、園児の足では30分。まさにシルクロードへ旅立つ一大決心の大遠征なのだ。ボクらが隣町だと思い込んでいるその幼稚園、実は同じ丁目に過ぎない。もしボクらが川向こうのマジ隣町へでも1人置き去りにされたなら、地の果てに来た、オーイオイオイ!とサメザメ泣きはらしてしまうことだろう。

ボクらは勇まし気に進軍を続け、途中、散歩させられている黒い犬に凄まれたものの、たちまちカルカモのヒナの様に数珠繋ぎで路傍(道端)歩行、一糸乱れぬ隊列で目的地を目指す。閉園した入り口前、こないだのように奴らがたむろし奇声上げて棒遊びしているゾ、と同僚が不安気に耳打ちしてくる。奴らに近づくにつれ傘下の者達は何故かボクから徐々に離れだし、しまいにゃ水面に落ちた一滴の油のよう、遂にプゥアーンと弾け飛んだ。

真っすぐキッパリ、微塵もぶれずに1人進軍してくるボクに気づいた敵軍3~4人に緊張感が走る。1番手前、「何だオマエー」と粋がるソイツが持っていた小枝をすかさず叩き(はたき)落とすボク。「イジメたのか?」。そら恐ろしい野犬の迫力に圧倒されたか、ヤツらはワッと一斉にクモの子散らし。それを見たボクの同僚達も何故だかウワアァッ!と逃げ出した。右と左に散りヌルヲワカ園児。そのド真ん中にボク。置き去りのボク。?のボク。

帰り道、垣根に留まったシオカラトンボを発見!。そうっと近づき、トンボの目の前でクルクル人差し指を回し続ける。遂に目が回ったトンボがクラッ。捕まえたッ!!。意気揚々と家路を辿る。やっぱり独りが一番。最初から誰ぁーれも居なかったんだしなー。

 

◆写真タイトル / さっき誰かが

 

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