釣りで潔癖症が完治 / アジを釣りながら心をいやそう / 3年以内で完治

Title : 繰り返しながら洗い流すところ

 

 

 

潔癖症が完治したお話。

ボクの知り合いドミナ。彼は筋金入りの潔癖症。

大して会う機会もなかったので、その症状を目の当たりにして苦笑した。

 

「何が可笑しいんだよ!。オレはさっきからお前に真剣に聞いてるんだよな。

さっき座ったベンチに血がついてたんじゃないかって。

ここ見ろよオレのバッグ。な?、ここだよ。ちょっと薄茶色だけど

コレ血じゃないか?。しばらく経ったから変色してるけど?」とドミナ。

 

「こないだから言ってるよな、お前。タワケたことばっか。

血がついてる血がついてるって、もう5~6回聞かされてんだよオレ。

何で街中に血がついてるって言うんだよ。

ここは禁酒法の時代のアメリカか?。マシンガン撃ちまくってるのか?。

だいたい何だよ、ビニール袋を手袋代わりにしてスマホいじりやがって。

一緒にいて恥ずかしいぞオレは。仕事で同行しなきゃなんないから

ガマンしてるけどサ、しょっちゅうビニール袋を代えてんじゃないかよ。

一体何十枚持ってんだよ。メシ食いに店に入れば

何回も手を洗いに行っちゃってサ、よく疲れないね、お前。

彼女何て言ってるの、お前の奇癖。潔癖症。

明らかな潔癖症。やめろって言わないの?」

 

「言わない。彼女も潔癖症だから。一緒に気を配ってるね、完璧なまでに。

研ぎ澄まされてるね、病原菌との接触には…。だけど、疲れるんだよ同時に。

ヘトヘトになるね。しかしながら寝つき悪いね。

不安だからだね。彼女もだね。だからずっと起きてて

ブッ倒れる限界まで起きてるね。で、やっと寝付くんだけど

3時間くらいで起きちゃうね。中学の頃から明らかに台頭してきたねソレ。

大学で彼女と出会って意気投合しちゃったからね、潔癖な鉄壁カップル。

ますます誇張されちゃってドンドン酷くなってってる。

アスペルガーの一種なのかね。なんか書いてあったの読んだけど」

 

「あのさー、オマエ釣り好き?」

 

「へ?。何の話だよ。ヒトがマジで話してんのに」

 

「好きかって聞いてるんだよ真剣に。答えろよ」

 

「やったことないから分かんないよ。何で」

 

「お前にやる気があるんならオレが80パー治してやるけど、どうする?」

 

「ンッ?!。治せるって潔癖症が?。もしかしたら釣りで治せるって話なの?」

 

「試してみる?」

 

「…………」

 

 

海釣り。近場の無料釣り座。夏。八月。

初めての人間でも簡単に魚が釣れてしまうサビキ釣り。

釣れるのはサッパと小アジ、イワシ。

たまに小カマス、その他もろもろ(メニュー、ネコとトト参照)。

魚が釣れなければ

釣りほど退屈なものはない。釣り好きを作るには、まず釣らせること。

初心者を魅了し、釣りに引き込むにはコレしかないでしょう。

 

猛暑で汗ダラダラ。喫茶店で涼み、夕方頃に釣り座着。

「ホラ、ああいう風にして釣るんだよ。簡単だろ?」

彼は、小学生達がいっぺんに4~5匹のイワシを釣り上げる様子を見て

衝撃を覚えたようだった。

 

「魚屋でしか見たことないけどイワシ…。あれ、イワシなの?」

「イワシだよ。今からお前がアレを釣り上げるんだよスゴイだろ?」

 

生きたゴカイを針に刺す、など潔癖症には不可能。

サビキ釣りは冷凍した1センチほどのエビを大量に撒く。

仕掛けの上か下に専用のアミカゴかバケツを付けて、

その中にエビをセッセと詰め込むのだ。

仕掛けにはエサの付いていない針が5~10本。

 

ドミナはボクが全てお膳立てした仕掛けを海中に投じ、

教わった通り、持ち竿を上下にゆっくり動かしているが

20分経ってもサッパリ釣れない。ブツクサ文句を述べる彼に、

 

「回遊魚は定期的に回って来るんだよ。まだ来てないだけだ。

来たら30分は釣れ続けるから、楽しみに待ってろ」

 

彼は猛暑の中、手袋をはめ、決して地べたにも座らない。

フェンスに身体を持たれかけたりもしない。感染を恐れているのだ。

 

「オイオイオイッ!、何かが竿を引っ張ってるぞ!」

 

「魚が掛かったんだよ!巻け巻け巻け(リールを)!」

 

「オワアアアアアーッ!」

 

「海からこっち側へ持ってこい竿をッ!」

オタオタと大口開けて驚愕、棒立ちしている彼の竿仕掛けから

ピチピチ暴れる小アジが2匹、3匹と足元に落下してゆく。

 

「どどど、どうすんだよこの魚ッ!」

「自分で拾ってバケツに入れろ!オレのにも一杯アジが掛かってんだから今ッ!。ソッチに行けないんだよお!」

 

当然彼は拾わない。ボクは自分のアジだけをバケツに放り込み、

エビエサを仕掛けに付いているバケツに押し込み、急いで仕掛けを海中へ。

 

「お前もエサを詰めて仕掛けを落とせ!。次々釣れるんだぞ今なら!、

海まで来てカカシやってる場合かッ!」

 

結局、彼が釣った魚は全部で4匹。ボクは125匹。

たった30~40分だけで。

 

「また行く?」

 

「う~ん…。行きたいような気もしなくはないが…」

 

彼は帰宅後、3時間かけて服やら靴やらバッグやらを

深夜まで執拗に洗ったようだ。しかし

自分がアジを釣ったという衝撃が彼を魅了した。その年の夏、

彼は12回釣行しアジやらイワシ、サッパやらを

822匹釣ったのだった ( 彼が正確に数えノートに記載 ) 。

 

その後、彼はすっかり海釣りのトリコとなり、

アジやイワシだけでなく色々な種類の魚釣りに挑戦していった。とりわけ

キスには断然引き込まれた。それから3年が過ぎた。

彼は素手で暴れるゴカイを針に刺し、海水や餌で汚れた地べたに平気で座る。

もうビニール袋を携帯せず、血だの何だのと、一切言わなくなった。

 

それから2年。彼と彼女は2人仲良く釣りへ行く。揃って潔癖症は完治した。

ボクが証人である。医者に行かず薬も当然一切服用せず。

ただ釣りをした。

ここが肝心だと思うのだが、魚が好きだった。

だから釣りが好きだった。夢中になれたから潔癖症を克服出来た。つまり、

治せるのだ。魚が大っ嫌いなヒトには無理な話だが、

人それぞれ、自分が夢中になれるものなら、ゾッコンになれるなら、

それが潔癖症を治すだろう。ただし、

それは汚れる行為を伴うものでなければならない。

釣りは汚れる。別に汚いわけではないが、ナニゲにナマ臭い。

たまに、頭のてっぺんにウロコが付いているのを指摘されたりして

苦笑しながらはたき落とす。

もし、

魚が好きだけど釣りをしたことがなくて潔癖症、

だと自負するお方、絶対にオススメ。

海に投げたのは仕掛けだけじゃない。

 

余計な物も、投げちゃった、でしょう?。