新築のお庭 (中編) / 日本庭園の美 / 錦鯉VSナマズ

Title : 橋はナマズんちの屋根だった!

 

 

網の中のソレは存分に暴れ狂い、自分で自分の体にアミをねじり絡めてしまった。「ウゥククッ!」歯を食いしばりキャシャな腕(かいな)で網輪の中の荷物を岸辺に引きずり上げるサル。

オデコやホッペタに夏草の先端がハリの様にチクチク刺さる。網の中に黒い塊が見える。黄金色の腹らしきものも見える。ボクは指先が期待で震え始めるより早く、網尻ワシ掴んで中の物体逆さ落とし!。

荷物は多少引っ掛かりはしたものの、ソレはズッシリとした重さをボクの手首に残しながらズゥリィ~、ヌルゥリン、どさっ、と雑草上へ落ちた。えッ?!。

ナマズ!。ボクの腕より長くて太い、ナマズ!!。

何て素晴らしいことが起こったのか!。飼育、飼育だ!!。ボクの人生最良の日だ!!。一刻も早く水に入れて持ち帰らないと途中で死んでしまう!!。

入れ物ッ、入れ物はないかッ?!、とアタリを見回すのだが何もなしッ!!、と自分の半ズボンからむき出ている真ッ白きオダイコンと見まごう両腿を見下ろした途端ギョッとする。

「何だろ、これ…」

前屈姿勢で太ももにへばりついている何かにオドオド接近。

全長約6センチ、幅約3センチ。体高約1センチ。深緑色にショッキング・イエローの縦筋線が数本。上から見ると体型は人の唇型。

「ちちちちちちち血吸いヒルだああああああああああーッ!!」

恐怖の戦慄に全身総毛立つ!!。反射的に片手ではたき落とす!!。落ちないッ!!。しかも痛みが走った!!。すぐさま草ちぎり、束にして丸め、ヒルの体の下に差し入れてソ~ッと持ち上げてみる。ドヒャアアー!!。

ヒルの口がボクのお肉に喰い込んでるぅーッ!!。ソイツが両腿に1、2、3、4…ウェェ、ふくらはぎとくるぶしにも1、2、3、4、5…目がくらみ急速に吐き気がこみあげてくる!!。全身に鳥肌が立っているのが分かる!!。

コレが吸血ヒルだと即座に分かる園児はボクくらいなものだろう!!。水面に浮かんだフナの死骸に貼りついているのを何度も見たことがある!!。どっかのお兄ちゃんが

「あれはヒルっていうんだ。血を吸ってんだよ」と教えてくれた。

以来、その世にも恐ろしい存在がいつも頭から離れず常に警戒を強めていたのに、まさかこんなところでこのような悪魔どもに襲われようとは!!。

完全に乱心し度を失ったボクは無理矢理ヒルを引っ掴み、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ!!。吸血鬼の体は半分にちぎれはするが尚も噛みついたまま!!、その頭を激しく引っ掻いて噛みつく口をこそぎ落す!!。

たちまちボクの両足は血まみれ!!、白い肌に真紅の血!!、まるで大物ナマズ捕獲を祝うかのような、さてもめでたき紅白!!。ハッ!!とナマズの存在を思い出す!!。

ヒルも地獄に違いないが、ナマズが死んだらもっと地獄!!。ボクは即刻Tシャツを脱ぐとバシャバシャ水に浸して雑草上に敷き、ナマズを押してTシャツに乗せる。

サッとくるんで抱え上げ、シャツの水を出来るだけ絞らないよう細心の注意を払いながら、ヨタヨタとヘッピリ腰でスタタン、スタタンと家路を急ぐ。

スローモ-な小走りを続けながら頭に浮かぶは唯ひとつ!。お庭の池にナマズを入れる。それしかない!。そしてオバアチャン(母方の)ちへ帰る直前にアミですくってビニール袋に入れればいいのだ!。

あたふたと庭の裏木戸を背中で押し開け、チョコマカとせわしなく庭へと駆け込む。たちまち視界一面に広がる見事な日本庭園。

なのだが、猿にそんなことは分からない。“ 心 ” という字の一番長い部分の縁に膝まづき、丸めたTシャツ水面に浮かべ、そぉ~っと衣を横に引く。

たちまち目にも止まらぬ速さ、大振りの見事なナマズが水底滑り、得も言われぬ美しき錦鯉の群れの下に身を隠した。アア!、これで、全く一安心ッ!!。