モッちゃんザ・グレート / 処世術は身を助く

 

 

ボクの海釣り相棒、ネコのモッちゃん。オスの野良猫で、釣り人に人気の堤防エリアが縄張り。ちょっと見、イタリアのダンディ・ブラザー思わせるダテヒゲ模様が鼻の下。眼の色は大好物アジのコガネ色。ボクが勝手に名付けたモッちゃんはモッサリした毛並みが由縁。釣りの最中、ボクとモッちゃんは頻繁にアイコンタクトを執る。向こうの眼力パワーが凄くって、思わず顔を向けるから目と目がいつも会ってしまう。その神秘的ではないコガネ色は、いつナンドキでもこう語る。

“本日はお日柄も良く、ネコが食べるにはちょうど良いサイズの魚各種が頻繁に釣れることが予想されております。にも拘わらず、万が一にも釣れそびれる様な事態を引き起こしますと周囲の方々、とりわけ小動物に大変ご迷惑をおかけするようなことにもなりかねませんので、心して緊張感と自覚、責任感を持って釣りに集中くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。 敬具   平静△△年△月△日釣り座代表雑種猫モッ”。

ネコは大きな魚を噛み分けて食べることが出来ません。人間にとっての食べ頃サイズのアジ、ネコにあげても食べてくれません。新鮮釣りたての美味しい匂いがするアジをもらっても、悲しいかな食べられないのです。

モッちゃんとてノラのツワモノ、威信にかけて少しカジってはみるものの、全く歯が立たずウロコが数枚はがれ落ちただけ、という光景を最初の頃は何度か見ました。不思議とそんな時、こちらを見ようとしません。

せっかく貰ったのに申し訳ないと思っているのか、食べられない自分の能力を恥じているのか分かりませんが。とにかく、ネコが食事を楽しむことが出来る魚のサイズは10~15センチまで。

モッちゃんは小さい頃に人にイジメられた経験があるのか非常に警戒心が強く、さりとてオサカナは食べたいわけで、当初、人が侵入出来ないフェンスの向こうから顔だけチョイ出しして、「ミャン」(何かある?)でした。

ボクがやたらとモッちゃん、モッちゃんと気安く声をかけるようになり、小雨で釣り座に誰もいない時、シーズンオフでボクらだけの時、やっと釣れた小魚をフェンス越しに貰う、といった経験を重ねるうち、モッちゃんの、ボクという人間に対する警戒心、不信感も少しづつユルくなっていったようでした。

ある時、最近釣り座で姿を見かけるようになったオジサンが声をかけてきました。

「そのネコ、アンタが飼ってんの?」

「いいえ。何で?」

「いや、いつも一緒に釣りしてるみたいだからサ(笑)。でも置き去りにして帰ってるから不思議だったんだよー」

なるほど。しかし、“ やはり野に置けレンゲ草 ” でしょう。

最近、モッちゃんに変化が出始めました。いつもはボクの傍でゴロンゴロンしたり、竿の傍でイワシやアジ、サッパが釣れるのを辛抱強く待っているのですが、近頃はボクに釣果がないと、いつの間にかいなくなるのです。

アレッ?、アイツどこ行った?。食事を摂らずに帰るはずもなし、第一、夕暮れにはまだ早すぎる…。

アッ!。遠くにいました!。何やら若い女性釣り師3人に食べ物をもらっている様子。明らかにコビを売っているのがアリアリ。ボクが置き竿にしてソッチまで歩いて行っても、彼の非常に近くを横切っても、知らん顔。珍味の小アジを旨そうにカリカリやっています。

チェッ!。ネコのくせに処世術ってか!。

 

◆写真 / 釣れた大きなメジナ、大き過ぎて食べられもしないくせに、未練がましく指くわえて(くわえられませんが)見ている滑稽ネコの図。