自分探しをやめたカモ

Title : 車を運転するカモ

 

 

カモは家路に向かう車を運転しながら物思いにふけっている。先ほどまで彼は渡り鳥達に大人気の湖畔スポットに居た。

アシの繁みには白鳥が8羽ほど、他種はマガモである自分だけだった。

彼は茶褐色の羽毛をやたらと白鳥達に褒め上げられ、最初はからかわれているのではないかといぶかしんだが、どうやら本当のようだと確信すると妙に落ち着かない心持ちになってしまったのだった。

「妙に暗い顔だね、自分が褒められたのに。もっと愉快そうな顔をしなよ」とカモに比較的年齢の近い白鳥が声をかけた。

「いやなに、醜いアヒルの子の話を思い出しちゃってさ。白鳥の子がアヒルの群れに紛れ込んで、お前は自分達とは違うって上から目線されちゃう話をさ」

「ああ、そういう話は世界中どこにだってあるね。勘違いからくる仲間外れ。でも今は勘違いされてなくても仲間外れされるよね」

「そうそう。だから初対面の君達に誉められるとついつい疑っちゃうんだよね。からかわれてるんじゃないかってさ」

「う~ん、そうね。分かる。ボクらがどうして君を手放しで誉めたか分かる?」

「分かんない。どうして?」

「褒められると警戒するでしょ?。現にキミはそうなった。素直に喜べない。そんなキミのリアクションからキミは次のような事柄を考えずにはおれなくなると思われるんだよね。

1⃣ 何か裏があるのではないかと警戒するため神経が研ぎ澄まされる。

2⃣ 自宅の居間で昨日より鏡を見る回数が増える。知り合いにさりげなく自分の容姿について質問する回数も増える。

3⃣ ボク達白鳥のこと、今日のこのひとときを印象深く思い出す。

というわけで、馬鹿にされるより随分と自分探しの手助けになるってわけだよ」

「ほう?。つまり世間で自分探しを続ける人々は褒められたことが少ないって、キミはそう言いたいわけ?」

「そういうこと」

「じゃ、褒められることが多い人ほど自分の事を分かっている人だということ?」

「そうそう、そういうこと。自分探しの真意はね、褒められる要素を自分の中に探す行為なんだ。

探すんじゃなくて、それは自分で作るんだよ。

その方がずっとずっと簡単な行為なんだ」