第一印象〈2 〉/ 気配を感じる / 本質を見抜く

Title : 本質、ド真ん中!

 

 

 

森を歩き、セミ時雨 ( しぐれ ) を聞く。

“ うるさい ”

と、第一印象。或いは

“ 真夏なんだなァ ”

との第一印象。

セミが鳴くのは、オスがメスを呼ぶため。

力強く鳴けるオスが此処に居る、と知らせている。つまりは、

“ うるさい ” だの “ 真夏なんだなァ ” の第一印象は

セミが鳴く行為の本質とは何の関係も持たない、

人間サイドの、第一印象という名の単なる意見。

 

親の静止叱責も聞かず、ファミレスを所狭しと走り回る子供。

周囲には大迷惑この上なし。

“ ちゃんと躾 ( しつけ ) られてないわね ”

と、その子に対する誰かの第一印象。確かに。

しかし、走り回るは子供の習性。

駆けずり回って情報を収集するように、

遺伝子が指示出しをしているから。

いい悪いを言っているのではない。

“ ちゃんと躾られてないわね ”

の第一印象は、子供の本質とは直接的な関係がない。

つまりは、第一印象という名の、単なる意見。

こんなことなら、第一印象など取るに足らないシロモノ。

何の役にも立たない。

面接の時だけ、誰かの前でネコ被る時だけ、必要なダマシテク

ならどうでもいい。

メジャーリーガーのイチローは、大打者で超一流のスラッガー。

彼はゲーム中、或いはゲーム直後のインタビュー中、

自身の “ 気 ” を完全に消し去っている。それには超一流の理由が有る。

イチローが、次々に各対戦ピッチャーの勝負球を打ち込んでゆく。

見事な業と言う他ない。既存の帝王学ではない

彼自身が編み出した帝王学

に基づくバッティング法の威力は余りに凄まじく、

超一流投手に強烈なダメージを与え続ける。

ゲームのさ中、イチローは全ての選手の

第一印象を探る。探り続ける。

髪型?、ユニフォームの着こなし?、 装飾品の有無?、

無精ヒゲはキチンと剃っているか否か?。

まさか。風紀委員じゃあるまいし。

 

相手の “ 気 ” だ。それを見ている。

 

 

 

 

今この瞬間、彼は何に気を取られているか。

平常心を失っているか、集中して研ぎ澄まされているか、

不安がよぎっているのか

心がグラつき、動揺して周囲が見えているつもりで全く見えていないか。

相手の全身から発散され、今まさに外気へ放出されている

“ 気 ”

を読む。

 

弱気だ!。

盗塁成功。一瞬の隙を衝いたのではない。

ピッチャーが自身の弱気を気にかけ、

それを立て直そうとして油断した数秒の切れ間を衝いたのだ。

盗塁前に既にセーフという見切り。

見てとれた第一印象は、相手ピッチャーの弱気。

それは僅かな注意力散漫を呼ぶ。

イチローはピッチャーの第一印象を見事に読んだ。

 

初対面の投手だったとか、何度も対戦している相手だとか、

そんなことは一切、第一印象とは関係ない。

人間は状況下で変わる。まるで変わる。

心理状態が変わる。

冷静沈着な人間が、いついかなる状況下においても

冷静でいられるとは限らない。

 

つまりは、会う度に人は変わる。

 

 

 

 

人の精神状態は、心理状態は常に動く。

ましてや大観衆が見守るゲームともなれば尚更。

心の波動は大きくスライドを重ね、動く。

ベースボール・ゲームは刻々と数字を変えながら進行する。

全選手、常に遭遇する一場面一場面、

それらすべてのシーンに於いて、彼らは、誰しもが初対面同士なのだ。

眼の動き、輝き具合、苛立ちを押し殺している気配。

汗をぬぐう回数、牽制球の数。

自身の気を、自身の気配を、自身の心理状態を見抜かれた時、

そこを突かれる。

トップクラス同士の一触即発のゲームだ。

イチローは、自身の気を完全に消し去る。

普段の、子供の様にはしゃぎ饒舌な彼

とは似ても似つかない寡黙な男。

イチローに打ち込まれたピッチャーは

必ずイチローのヒーロー・インタヴューを自宅で観るだろう。

ピッチャーはイチローの表情、声のイントネーション、

インタビュー内容、ありとあらゆる気を探る。

気を探り、その正体を掴みたい。

何故か。

自分を奮い立たせ、自分の能力以上の力を

引き出せる何かを読み取りたいからだ。

イチローのおごり、慢心、得意の絶頂。

もしそれがほんの僅かでも見出せさえすれば、

それはイチローに対する怒りの導火線になる。

一流選手が受けた屈辱は、空恐ろしい反撃力を生む。

 

 

 

 

プライドが傷ついたと認識したが最後、その選手は

力量以上のプラスアルファを引き出すことに成功する。

そんなことを誘発してはならない。

イチローは細心の注意を払い

それをディフェンスする。

自身の為、チームの為に。

ゲームは続く。今シーズンを終えても来年がある。

片時も “ 気 ” が抜けない。

 

かつて、イチローとは真逆の

ブザマ極まりないチームを観たことがある。

世界的な選手権で優勝したその女子チームは

興奮冷めやらぬグランドで、有頂天のお祭り騒ぎ。

周囲の人々など眼中にまるで無し。

天下取ったゾ!、鬼の首取ったゾ!、

相手国の観客や選手への敬意などまるで無し。

案の定、次回は優勝を逃した。

その次は、更にランクを下げた。

 

テクニカル面が全てを制す?。

それだけなら、試合など大して面白くない。

 

第一印象で仮説を立て、実行に移し揺さぶりをかける。

成功した。

すると、相手は警戒を強める。

第二印象で他の気を探る。

気の放出がない。隠したな。

さらにチャンスを待ち、第三印象を探る。

それが延々と続く。

長いシーズン中、次第に印象によるデータが蓄積される。

基本それは参考程度。

人は状況に応じて刻々と変わる。心理状態が変わる。

何度対戦しようとも、常にその相手とは初対面。

それが、第一という本当の意味だ。

 

 

 

前編で、人は自身から立ち上る気を自身で隠蔽 ( いんぺい ) することは

不可能だと記した。では

イチローはどうやって自身の気を消せたのか。

代わりの気

を投入すれば良いのだ。

仮想の気を放出すれば良い。それがカモフラージュの役目を果たす。

イチローは、野球とは全く別の事柄に強く囚われ、気配を消す。

無論、計算された意図的な行為だ。例えば

愛犬が病気になった時のことを思い出し、

今という時が当にその時だと仮想し、

その状況に身を置く。

無論、これは私の例えに過ぎないが。

 

分かり易く例で説明しよう。

 

会社の就職面接。面接官数人の前。

彼らが求める人材は、求める “ 気 ” は、当然のことながら

受験者のやる気。

面接官によって気の要望が異なりはするが、基本的には、

勝気、元気、心意気、覇気、勇気、強気。

総じて、気概、気迫、気力。

それが彼らに明確に伝わりさえすれば、間違いなく採用される。

逆に、一流大卒だろうが経験豊富だろうが、

面接官に自身の気落ちを感じさせたり、無気力を感じさせたり、

気分散漫を悟られたり、覇気がないことを見抜かれたら、それでお終い。

それでも採用されたなら、何かが可笑しい。

 

ともかく、仮想第一印象を創ることだ。

自分が発奮し、劇的にやる気になる、何か。

 

 

 

 

勇気みなぎり、気迫を押し出せる何かを

自身の中に仮想設置することだ。

恋人と今すぐ結婚したくてたまらない!。

その恋人のお父さんから結婚の許しを何が何でも得たい!。

ならば今、目の前に居る面接官たちが、その恋人の父親で

回りの人が親戚。

本気でそう仮想して面接に臨むことだ。

私のこの助言を信じ、この方法で

不可能と思われた第一志望の難関会社に就職を決めた者がいる。

彼のひと言は、

 

「一生大事にします!。誓います!」

 

「何か、娘の結婚のお願いに来てるみたいだなァ」と面接官は笑い、

周囲も苦笑いしたという。

 

 

ホントにそうだったんだけどネ。