絶食ダイエット (1) / 自宅浪人生の減量作戦 / 拒食症全記録

Title : 挑戦者の涙

 

ボクは凄まじいダイエットを経験したことがある。

その時ボクは間違いなく大学浪人生だったはずで、決してボクサーではなかった。なのに過酷な減量を強行してしまった。

“ 絶食 ”という名の無謀ダイエットを。

ヘタをすれば命も落としかねない程の過酷ダイエット。

いいや違う、違う、違う。

ダイエットだと思い込んでいたのは愚かなるボクだけ、

それは異常な精神世界への無邪気なトランポリン・ゲームだったのだ。

 

ポーンポーンと天に向かって自身を発射し、

落下しては有頂天顔で再び天を目指す。

無知ゆえに成せるワザ、未熟さゆえに出来たワザ。

鏡を手にすれば1時間近くも食い入るように覗き込み、こけてゆく頬に満面の笑顔。

 

そしてそれは、みるみる酷く不機嫌な顔へと変貌してゆくのが常(ツネ)。

毎回ワンパターンの怪人二面相、日々スリムになってゆく自身の姿に

輝かしい未来を重ね合わせるピンボケな誤解。

画素数の高い鮮明なる勘違い。

 

とにもかくにも、ボクは恐ろしき闇から奇跡的に生還した。

この命がけの1人芝居、その恐怖の内訳を知る人は片手に余る。

このエピソードは、“ ネコならエッセイ ” 中、突出した有益情報

だと言えるだろう。これは若さへの警告、思慮のなさへの戒め。

これは1人の、特筆すべきアンポンタンが挑んだ24日間の絶食エッセイである。

 

大学5校に全てに落ち、ボクは自宅浪人を始めた。そう聞かされた元担任のポンポコリンタヌキ先生は憮然として言い放つ。

 

「俺の教え子でそんな奴は1人もいなかったぞ。

皆ぃ~んな、予備校へ行ったんだ。偏差値1つ上げるのが

一体どれだけ大変なことなのか、お前は全く理解していない!。

宅浪してお前が志望校に合格したら

オレは校庭を逆立ちして1周してやるよ!」

 

ボクの好きなポンタヌキ先生の言葉は愛の鞭。

それはボクのスポンジ脳ミソに心地よく浸み込む。

だがボクはそれを、すぐさま両手で力一杯絞ってしまった。

 

高校を卒業するや、ボクは住まいを市内から市外へと移した。

一足早く単身赴任していた父と合流したのだ。

ボクは友人達と切り離され、誰1人として知り合いのいない土地に

軟禁状態となった。

 

「つまらん。全くもって、つまらん」

ボクはブツブツ呟きながら家の近所を慎重に歩いている。

なぜ慎重かと言うと、周囲の地理に不案内だからだ。

周知の如く18歳はナルシーMAX、恥かきを嫌う。万が一にも迷子と化し、

大人を気取る自分がお子様なんだと半事実を突きつけられるなんて

ヤなこったい!。

 

というわけで、この日も受験勉強第一部を終えたボクは

夕暮れ時の小1時間を散歩アワーに充てていて、

自宅半径500メートル内をブラブラ走行中なのであった。

昨日より200メートル先まで足を延ばす挙に出た勇気は

たちまち収獲をもたらす。眼前に広い店舗のベーカリー発見!。

 

すぐさま入店し陳列ケースを覗き込む。浪人生に暗い影落とすアンドーナツ不在という事実。

 

「ないんですか」

 

「2階にあると思うよ。行ってみれば?」とオバサン。

 

「上ですか?」とボク。

2階は上に決まっている。

 

恥のかき捨てでソソクサと階段を上がらねば。

ブーンブーンと何やら機械音。上がって納得、そこはパン工場だった。

ふと目を落とすとチョコレートパンがベルトコンベヤーで移動中。

結構大掛かりな店なのだなと感心、

美味しいパンへの渇望が湧き上がりノドが鳴る。

 

手前のオジサンに「アンドーナツは?」

 

「あるよ。幾つ?」

 

「2つ」。

 

帰宅するや自室でパクパク。

「旨いじゃないのよ。ええ?」。