絶食ダイエット (2) / 匂いひとつでダイエット挫折 / 減量宣言むなしく

Title : 未知なる世界を覗いてみれば

 

 

 

魔が差す、という。ヤキが回る、とも。そういう状態や状況を経験した人は、

後になって判で押した様に呟く。

 

「何でこんなことしたのか、自分でも全く分からない…」

 

そう言い放って首をかしげる。あるいは途方に暮れる…。

ボクにもコレがドンピシャ当てはまる。何故、ある日突然、ある日を境に、

絶食などという危険サーキットにフルスロットルで挑んだのか…。

 

キッカケはウロ覚えながら思い当たる。

ボクは自宅浪人の師をラジオ講座に求めており、その流れのまま

ラジオ番組を聴くことが多かったのだが、

何かの番組にゲスト出演していたお坊さんが

 

「一週間の絶食であれば、むしろ健康体になります。体の毒素を綺麗に対外へ排出する作用をもたらします」

 

と発言。コレを聴いたからではないか。しかし、コレは

厳しい修行に耐えるお坊さんだからこそ出来る御業(みわざ)なのか、

一般人にも当てはまることなのかは記憶にない。

うつらうつらしながら聴いていたので前後の会話が分からないのだ…。

 

だが、希代(きだい)のお調子者は何の脈絡もなくソレに飛びついた。

ボクもやりたいなー、1週間ダイエット!。やれるかな?。

お調子者の脳に住みつく、もう1人の更なるお調子者が即答。

 

「やれるやれる、やっちゃえ、やっちゃえ!。スリムになればモテモテだぞ~、その上に健康体になるって特典付きだあーッ!」

 

夕飯時。食卓につく両親と弟の前、ボクは淡々と宣言する。

 

「ワタクシは明日から1週間絶食します」

 

体の毒素を抜き健康体になります、と。大事な大学受験を控える身、

何より求められるのは健康ですこやかなる精神だ、と。

絶食すれば頭は澄み渡り、学問も一言一句ストレートに頭に入るのだ、と。

だが、誰からも反応なし。

鳴き狂うドンビキ(ウシガエルの俗称)の様な風船頬で

鶏のカラアゲ頬張っていたこれまでのワタクシ。

マトモにとりあってもらえぬも当然。ああ結構。別に構いません。

とりあえず、今夜は未練なきよう食物限界摂取。

明日より心おきなくダイエット。夢は膨らむ。

ジーンズが似合うスラリとした足。サイコー!。ケケケ。

 

そしてそれは始まった。朝食抜きは習慣で問題なし。昼食抜くも問題なし。

ルーティーンの夕方散歩、例のベーカリー前を素通り。

刹那、異様にかぐわしきパン酵母の香り。欲望噴出!!。

匂いひとつでダイエット挫折!。

 

たちまち入店、徒歩10分の家路も待てずアンドーナツ歩き食い。

むさぼり食い。慌てて食べた為にパンが喉に詰まり、

死ぬかと思う程のピンチをも招く。

数メートル先に見える飲料自販機までダッシュ、ミネラル水ラッパ飲み。

一瞬、自分が進軍ラッパをパッパラパッパーパー!と吹いている図が

頭に浮かび、あまりの可笑しさに勢いよく吹き出す。

たちまち水が鼻孔に入り軽い痛み。チェックのシャツの胸元ビッショリ。

 

たちまち誓う。絶対に夕飯は拒絶する!と。

腹ごしらえをしたから今度こそ目的は貫徹出来るだろう!。