絶食ダイエット(12) / ポリープが出来た歌手の話 / 潜在意識の勘違い

Title : 空腹で目がグルグル回る

 

 

 

7日間絶食ダイエット最終日…。感無量である。

飲料水のみで連続5日半、体重70キログラムは1キロたりとも減らなかった。

それは、18歳のアコヤ胸奥で息づく真珠の熱情に、煮えたぎる緑茶を浴びせかけるに等しい仕打ちであった(ボクは緑茶が苦手なもんで)。

誰がこんなひどい仕打ちをボクに?。ああ、それは既に特定済みだ。

その者こそがボクの脳。これまで何度も指摘した、我が最愛にして最悪の脳生存本能の成せるワザ!。

5日半、ほとんど一切の栄養(唯一コーヒーと水から何がしかの栄養素)が身体に取り込まれなかったという事実…。

肉体の指令塔であるブレインは、眉間にシワ寄せ恐怖の戦慄におののいていたに違いない。ゆえに、ボクの全身体の隅々にまで戒厳令を敷き、こう命じた。

「現状ヲ維持セヨ。持チ応エヨ。崩壊ニ備エヨ。最高レベル警戒態勢ヲトレ」

と。ボクの全肉体器官はドミノ倒しで命令厳守。果たしてそんなこと出来るのか。可能なのだろうか。こういう話がある。

 

ある有名歌手の喉にポリ-プが出来た。その除去手術に大した危険性はない。

なんなく手術を終えた執刀医は

「ああ、これで終わりだ」と安堵の声。

この時ちょうど麻酔が切れかけていて、歌手の潜在意識が寝ぼけマナコで半分起きかけていたのだ。ああ、何という悲劇だろう!。

幼児に等しい潜在意識は勘違いしてしまった。

自分(歌手)の歌手生命はこれでお終い、だと。

 

やがて麻酔は切れ、歌手は意識を取り戻す。

潜在意識にスリコミが行われてしまったことなど全く自覚していない。

催眠術が解けた時、かけられていた間の記憶が全くないのと同じ。

「もう大丈夫、すぐにも熱唱出来るようになりますよ」

医師の笑顔に歌手も大満足。

先生の太鼓判、アア安心!。と確信したのは歌手の脳表面意識。

人が自分を認識するのは表面意識だ。人は自分の潜在意識の中に何が入っているのか全く知らない。術後回復期間が過ぎた。手術は成功している。

 

歌手は声が出なくなった。

 

医師達の誰1人として原因を特定することが出来なかった。

絶望した歌手が最後にすがったのは高名な心理療法士。

彼はおびただしい催眠療法対話の果て、遂に原因究明を果たす。

歌手の意志や思考である大人の表面意識を眠らせ、幼児の潜在意識だけを起こしたまま、ソレとガマン強い対話を繰り返し、遂にキーワードを引き出させたのだ。

 

「だって、もうお終いだって言われたもん」

 

小耳に挟んだこの実話が事実なら、今回の脳戒厳令はまさしく可能。ボクの考えはこうだ。

“ 笑う門(かど)には福来たる ” という有名なコトワザがある。でもボクは付け加えたい。

“ 笑い声はするのに、門がどこにあるのか見つけられず焦る福 ”

 

そういう落とし穴もあるのだと。ボクは見事に落ちた。

体重は毎日、コンスタントに減ってゆくものだとばかり思い込んでいたから…。

ボクの肉体全機関が全ての体力を使い果たし、もうこれ以上持ちこたえられない、と限界に達した時、身体はボクに隠していた体重5キロ減を発表した。

最初から見せてくれれば良かったのに…。でも、脳の中に住む誰かさんは、絶食1週間が我が身体に健康をもたらすなどと思ってもみなかった。

それを知っていたのは脳内にある表面意識だけ。

では、戒厳令を陣頭指揮した住人は一体誰だったのか。

そうです。アブちゃんを付け、オシメもさえ取れていないかもしれない、愛おしいボクの潜在意識だったのです。バブ。

 

次回より、いよいよ絶食ダイエットの本編へと突入してゆきます。