絶食ダイエット(8) / 全裸で体重測定 / 絶食3日で体重減らず

Title : 減量中につき入店不可

 

 

 

自己嫌悪な独演会、悲恋ものを見事に演じきった虚脱感からか、

寝ては覚めての繰り返し。

ボウッとするがロクな運動もしないボク、エエイ起きてしまえッ。

立ち上がりかけ足首に絡みつく布団に引っ張られ、

バランス崩し机の角にヒジをぶつける。結構痛いッ。

絶食で体力が相当低下しているのだろうか。

 

やや不安になるが、そうだそうだ、

荒行のお坊さん達だって経験しているんだし大丈夫。いや待てよ、

あの方々は日々体を鍛えているから大丈夫なのでは?。まあそうなのかも…。

そんなことより今日はボクにとって特別な日。

誕生日でもイヴでも元旦でもない。

絶食3日間ごとに体重を計測する!。ハナからそう決めていた。

今日は4日目の朝だから。異様な程の昂ぶりみせるボクのハート。

 

神聖なる計量儀式を執り行う前に、まずはカレンダーに

◎を記入。

ああそうか…と赤マジックを極細黒ペンに持ち替え、

1文字が縦横5ミリ×5ミリの大きさで

SB と書き込む。

自分的には S (失恋) B (ブティック) なる暗号のつもり。

SB (ショッキング・ボーイ)、さよならばっかし、でもなんでも良い。

自虐の戒めコードということだ。

とにもかくにも物置コーナーから体重計をズルズルと引っ張り出す。

 

「オフオフッ」舞い上がるチリに軽く咳き込む。誰も使ってないもんなァ。

コレ防水だっけ?。水洗いして壊れちゃ敵わないから雑巾で水拭き?。

バカな。尊い儀式に汚れた台座などあり得ない。

母は外出中みたいだからと真新しい純白のタオルをかすめ取り、

水に浸して我が友に磨きをかける。その間5分くらいか。

両手に不快なだるさを感じる。え?、これしきのことで?。

やはり体力が異様に低下しているのかもしれない。

ドライヤーで足乗せ台を丹念に乾かし、準備は整った。

安定性から当然フローリング上に体重計を設置。

全裸計測を余儀なくされるので、玄関ドア真正面延長線上ではなく、

ドアから見て左に折れるキッチン角が良いだろう。

万が一、測定中に母が帰宅してもボクの姿は見えず、

マッハでキッチンテーブルに置いたパンツを穿く時間は十分にある。

 

スッポンポンで、おごそかに判決台に上がるケナゲな青年。

針が小刻みに左右揺れを続ける。

安定するまで少し待つ。もういーかいッ?。

もうーいいーよッ!。

全身の緊張を解き、大きくユックリと深呼吸。これでOK。

全体重が正確に台座に乗っている感じだ。閉じた目のまま自問。

何キロ減ってるって予想してた?。

ええっとねェ~…。思い出すのに数10秒かかってしまった。

これもあり得ない。やはり脳の動きも鈍っているらしい。

それはさておき。ああ、そうだ、3キロと予想したのだ。

控えめに見積もってねー。さあ!、いざ測定結果!。

ゆっくりと両目を開き視線を落とす。

 

70キログラム。

 

計り窓に目を落としたまま固まってしまう。

全裸で完全静止しているボクの姿は、ミケランジェロか誰かのブロンズ像、

“ 体重計に乗る人”。これだろう。

しかし一体全体これは何だ?。ナニゴトだ?。ボクの身長は172センチ。

絶食成功1日目前日の体重が70Kgジャストだった。

あの時は汚れた台座にタオルを敷いたが、

そんなもん大した誤差にはならない。であるからにして、つまり体重は全く

減ってない?。

ああ、減ってないよぉ~、それが何か?と体重計。

おかしい!。こんなことは全くもっておかしい!!。

足し算引き算に反している!!。壊れているのか?!。

即座に降りて針の静止を待つ…。静止した。

キッチリと目盛り0を指している。そうだ!、机に片手用バーベルが在るゾ!。アレが2キロだ!。

走れメロス(太宰治 / 小説タイトル)で持参、体重計に乗せる。

 

1.95キログラム。

 

「壊れてない?」とボク。

「ええ」と笑い噛み殺して体重計。

その後2回確認するも結果は同じ。

了解。了解した。ガッカリ。ドッチラケだ。

 

夕方、気晴らしの散歩から戻る。飲食店避けての30分だが

食の誘惑は30度数といったところ。全く問題なく誘惑を寄せ付けず。

部屋に入ると何故か弟が壁張りカレンダーの前。けげんな顔するボクに

 

「兄貴、我慢出来なくなって食った?」

「ああ?。何それ」

「だってココに小さくSBって書いてんジャン」。

 

何だコイツは。いつの間にカレンダーチェックしてんだ。

ボクの絶食には全く関心ない風だったのに。

 

「SBの意味分かんの?」と挑戦的なボク。

「カレーでしょ」

ばぁぁぁ~か!。思わず笑ってしまうゾ、貧相な発想!。

 

「じゃあ、ショーロンボーの略かもしれないだろーが」

「兄貴。ショーロンボーじゃなくて、ショーロンポーなんだよ。

ポー。ポー、ね」

 

コイツは山鳩(ハト)か何かなのか。

 

「アッ、そうだ。ちょっと来いよ」

ボクは弟を体重計に乗せた。64キログラム。

 

「お前、体重何キロ?」

「見れば分かるジャン」

「そーじゃなくて普段だよ。いつも。いつもは何キロなの?」

「知らない」

「知らないハズないだろ保健室とかで計るだろ?」

「1年も前だからなあー」

ありえない計測結果にプンプン。おかげで気が紛れたのか、

絶食4日目成功。