絶食ダイエット(14) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳が絶食適応を身体に命令

 

 

絶食ダイエット9日目。掟破りの怪進撃は続く。

ボクの計画はこうだ。

昨日の様に今日も体重が1キロ減で終わったら、今後も1日1キロの体重減だと見なす。

すると5日で5キロだから、先の7日間+5日間で、ダイエットに費やした日数は延べ12日。

2週間かからず体重10キロ減。身長170センチで体重60キロ。

自分の身長から110を引いた数がベスト体重ということらしいのでパ~フェクト!、大変よろしいのではないかとタヌキの皮算用。

ここ2日間は安心したのやら体力低下なのやら分からないが、タヌキ寝入りならぬ熟睡タヌキ状態。体力低下への不安もキッチリ8時間睡眠で対抗、何とか帳尻が在っているのではないかと高を括る。

鏡で体重6キロ減の顔をしげしげと眺め観察してみる。

ウ~ン…。何となく少し痩せたよ~な気もする…。心持ち、むくみがとれたかなあああああ~、という程度。

通常、周りの人間にその人が痩せたと気づかれるのは5キロ減った時らしい。

そ~だとしてもボクの場合、大して変わったとは思えないんだけどなあ~とパジャマの裾たくし上げ、ポンポコリンお腹を鏡さんに直視させてみる。

確かに、ついぞこないだの様な張り出しではない。当然であろう。

胃袋には全く何にも入ってはいないのだからねえ~。腸にもねぇ~。当然便通は小のみ。ここ3~4日そうなのだ。

それにしても退屈と言わざるをない。

浪人生が退屈でやることがないなどと言語道断だが、今ボクは人体実験中。軟禁隔離囚人なのだから仕方がないのだ。

と、ダイエット開始半ばから万年床と化している布団にダルく身を横たえてみる。

脇腹に重力がかかり、それが布団にに沈む時、胃の中の空気が動く気配を感じる。つまりボクはKYじゃない…。

横向きで寝そべり暫く(しばらく)指で畳をカリカリ軽く引っ掻くうち、ふと “ 卵かけゴハン ” の映像がポッカリ浮かぶ。空腹のあまり、好物の幻影、蜃気楼を見て喉がゴクリと鳴る、なんていうのとは全然違う。

第一、今のボクはヨダレなんて出ない。ボクの身体は食欲の概念さえ忘れ去った感あり。

要するに、お腹減った、がない。

卵かけゴハンが浮かんだのは、昔の友達の顔をフト思い出し、アア、アイツ今頃どうしてるかな。元気でやってるかな?、なんて感じだ。ナマ卵は精力つくわけだから、きっと卵自身も元気にやっている事であろう。

そういや、ナマ卵食べる習慣があるのは日本人だけってホントかな。確か、映画 ” ロッキー ” の中、主人公が早朝マラソン出発前にコップに割り入れた数個のナマ卵を一気呑みするシーンがあったっけねえ~。

外国人はどう思ってんだろボクらのこと。やっぱりサムライだから、空手だから、ロッキーみたいにナマ卵呑むんだって思われてるのかもしんないなー。

深夜12時、家人のスキをつき全裸測定。

体重きっかり63キログラム。

つまり1キログラム減。

やはり。やはりか…。

いいぞ。計画通りでないの!。

 

 

◆写真タイトル / ロッキーめし ( 調理 / カモノナカ )

 

 

絶食ダイエット(15) / 今日も1キロ減った / 痩せたなと言われず

Title: 友達の中でひとりホッカムリ

 

 

 

流石に、高校時代の親友3人からの誘いは断れない。

過酷なダイエット中であろうとも、だ。

市外の片田舎から快速バスで1時間半、約2ヶ月ぶりに

懐かしき市内中心地へ降り立つ。

待ち合わせ場所は、ジャズ喫茶サテンドール。

ここは大学生達の隠れ家的な溜まり場として知られ、

雑居ビル地下の空間は

自由文化論語るヤカラのルツボ、タコツボ、指圧ツボ、

極めて暗い照明に浮かび上がる

レンガ壁の赤が目に染み入る場所であった。

高校生のボクらは度々ここに入り浸り、

オトナな会話を得意げに盗み聴きしては悦に入っていたのだが…。

 

今、想い出深き店の片隅に再び座し、馴染みのダチと差し向かう。

ついこないだと、ちっとも変わらぬこの空気感。

マンネリとも呼べるし、お気に入り登録とも呼べる。

ボクらの間で変わったことと言えば唯ひとつ、

高校生ではなく揃って浪人生だということ。

 

仲間は各々サンドイッチを頼み、

食い意地張ったボクが何も食べモンを注文しない

ことに意外そうな表情を見せるが、

それ以上は何も聞こうとはしなかった。

 

人間は自分が不服とする状況が継続すると口数が減る。

というボクの持論は如何 ( いかが )なものか。

それはともかく、彼らのホッペタがモグモグ動いている光景

に奇妙な不思議さを感じる。

 

何をしているんだろう?

とさえ率直に思えてしまう。

 

何をって食事に決まっているのだが。

ボクが夢見るように眺めているので、友達が

 

「お前も食う?」と尋ねてくれる。

 

「今、チョー満腹。家で焼きソバ、ガッツリ食ってきたから(笑)」

とうそぶく。

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絶食ダイエット(16) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体免疫力の低下

Title : ド派手に噴火ッ!

 

 

 

絶食ダイエット11日目。

自分が既に10日も食べ物を口にしていないという事実。

これって凄いことなんだろうか。大したことないんだろうか。

サッパシ分からなくはあるものの、何故だか起床と同時に浮かぶ顔。中学2年間、憧れ続けた高嶺のキミ。小麦色に日焼けした美しい顔、やや片目に被るサイドへ流れゆく前髪。それをアンニュイにカキ上げる仕草に、悲恋な我が身とっぷり哀れみ唇噛んだことも…。

高校進学で別々の学舎、ホントに手の届かぬキミへとなりぬ。んでもって、高校3年時に風の噂。彼女が高校のミスコン女王になったってさ。へええええ。そうかあああああ…。

こないだマブダチらとお茶した時、その彼女が髪を茶髪アフロにしたって情報。

「嘘コケ」

「コケェ、コッコウ。全力マジ。極マジ」

「何でだよう~」

「何か悪い連中と付き合ってるみたいな。噂だけどな」

 

人は変わる。チョットと変わる。劇的に変わる。外見的に変わる。内面的に変わる。

色々あるけど、今のボクは外見が変わるってヤツ。その試練中。

劇的に変わるはずだったのにチョビッとだもんなあ。少ぉぉし涙ぐましい気分だよ。トースト色に日焼けした彼女の顔に茶髪アフロ…。似合うのかなあ。想像つかないなああああ。

今日は朝からやたらと劇的に喉が渇く。冷えた麦茶をガブ飲みしても一向に渇きが癒えない。

ジレて外出、近所のコンビニでスポーツドリンク1リットルを購入、ガブ飲み。

2時間後、突然、♪ 吹けよ風、呼べよ嵐 (ピンクフロイド) の不穏なイントロダクションが始まり出し、10秒後、得体の知れぬ壮絶な下痢ウェーブの脳内アナウンス!!。

転がる様にトイレに爆走したい気分で、ゆっくり、のろおり、のろおりとトイレへ。慎重にスローモーにやらないと一色即発。そうなることは火を見るより明らかなのだ。

その夜は正に地獄のヘル・ナイト。

どう考えても尋常ではない下痢状態。

いくら水分摂取過多だったとはいえ、水アタリ、だとか腹冷え、といったレベルではないのだ!と両親に訴える。

何度もトイレと自室を往復、過酷な下痢ぴょんキャラバン続けるボクに、救援の医者が夜9時あたりに到着。

ボクは “ 大腸カタル ” である、と!。

風邪のウィルスが腸に入って発熱したんだと!。

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絶食ダイエット(17) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体の防衛機能の限界

Title : 脳内・非常事態・警告・発令・の図

 

 

 

絶食ダイエット12日目。

ほとんど眠れず一夜を明かす。

朝7時過ぎ、トイレに行こうと部屋を出頭ら(でがしら)、登校する弟とハチ合わせ。ヤツは慌ただしく靴履きながら

「兄貴。さっきオフクロがねー、眠ってる兄貴の顔見たら死人みたいな顔だったって言ってたよ」

鼻先で閉じられるドアをしばし見つめ立ち尽くす亡霊兄。

 

奇遇だ。実は昨夜か未明か分からないのだが、ボクは三途の川の渡し船発着所で整理券を受け取っている夢を見た。

「アナタがエンマ様ですか」

「突拍子もない。大王がこのように現世に近い場所までお出で(おいで)になるはずもあるまいに。タワケ」

その者の顔は暗くて全く見えない。

明かりが灯っているのに何故だろうと、ボクは自分のパジャマを見下ろし仰天。

紐に吊り下げられた洗濯物の様に、パジャマの下に中身なし!!。

明らかに今、ボクがこうして身に着けているというのに!!。

これは大変な事になった、のっぴきならない状況だぞと青くなり、顔なし男に

「ボク、引き返して帰ります。そこの道を戻ればいいんですか」

「ダイエットに戻るのか。死にに帰るのか。もう此処にいるんだからリフレインするのも面倒じゃない?。マ、どっちみち此処に戻るんだから別にいいけ…

目が覚める。

普通ならゾッとする反応が通常かもしれないけど、そこは美しい10代。

さして深く考えることもなくヒトコト、

「変な夢」

即忘却の彼方。

しかしながらだ。母の言葉を重ね合わせると流石に心に暗雲立ちこめる。これは予告だろうか、暗示だろうか、啓示(神の声)なんだろうか。

やや青ざめながらフト気が付くと体重計に乗っている。シマッタ!、計測は1日の終わり、すなわち今夜11時過ぎなのに!!、と舌打ちしつつ目を落とす。

 

58キログラム。

 

頭空白。真っ白。

その瞬間、ボクの周囲の全てが静止した。

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絶食ダイエット (18) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳機能の低下

Title : 空きっ腹を覗き込む男

 

 

 

 

次第に当初の目的からガタゴト逸脱。

チョットあんた、浪人生なのに何やってんの?、と四六時中も自責の念。

絶食ダイエット13日目。

今日で終わりなんだから、と言い切れない自分が恐い。

やっぱり少し変。いや、かなり変。?。

脳が正常な判断を下せない状態にでもなっているのだろうか?。

急に不安。凄く不安。

発作的に勉強机に着席。

脳がマトモに、人並みに働いているか試してみなければ、と豆タン(手のひら大の英単語辞書)のページを適当に開き、まだ暗記していない単語をチョイス、ノートに筆記。

「VICTIM、犠牲。VICTIM、犠牲…」

と意味を口に出して呟きながらボールペンで何回も何回も繰り返し書き続ける。

大体ボクの単語暗記法はこんな感じ。大学ノートA4に1単語を5行。そこで次の単語にチェンジ。

そんなことを取りつかれたようにパジャマ姿で2時間。指が腱鞘炎(けんしょうえん)気味になってきたので終了。

壁に張り付いているナメクジをジワッとはがすようにペンから指を1本づつ。

ひええ。久々の勉強気分で後ろめたさが多少軽減。

「はぁぁぁ~、お疲れ」

真昼どき。

「ちょっと散歩してくる」

「あ、じゃぁ帰りに大根とキャベツ買ってきて」と母にパシリを命じられる。

通りに出ると5月の太陽光が閃光の様にボクの目を射抜いた。

やけに眩しい(まぶしい)。鋭い。

目を一本線のように細めフラフラと歩き始めると、カラッポの胃の中に雨上がりの湿った空気がヒウッと流れ込むのが感じられ、何だかいいようのない虚無感にとらわれる。

こんな時のボクは、いつもなら迷わず焼きそばパンと卵蒸しパンのセット食べで気分を発散させるのだが、当然それは今ご法度。日頃、いかに自分が間食摂取でストレスを消化排出していたのかという事実に気づき、しばしボーゼン。

白いテリヤを連れた女性とすれ違う。犬がボクを鋭利に見上げ、突如けたたましく吠え始める。

「アウアウッ!!、アアウッ!!、アーッ、アアウッ!!」( バカかお前は!! )

ふん。そんなこたぁ~言われなくても分かってるツゥの。

 

しかしマジやばい。

痩せる誘惑の勢いに圧倒され身動きの取れない今の現状は、マジやばい。

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絶食ダイエット (19) / 浪人生の絶食ダイエット / 判断力の欠如

Title : 体内の異変

 

 

 

絶食ダイエット2週間目。

起床と同時にあたふたと洗顔歯磨き、迷わず台所でコーヒー。

ゆらありと現れる母、「勉強してんのアンタ」と恨めしや。

「今日から始動します」と素っ気なくボク。

いえいえ嘘ではないのです。いい加減に勉強始めないと不安で仕方がなく、その重圧たるや子泣き爺に捕まった旅人に等しく…。

溜まりに溜まったラジオ講座の英語授業を聴きながらモクモクと受験勉強に励む姿はドーヨ。

しかし時折、目がかすむ。アレ、何だこの曇り。コンタクト無き両目をゴシゴシ。

何とか回復するも、これまでにない現象。

ソレが何度か起きたものの、気が付けば5時間ノンストップで勉学特急!。

やったネ、この調子でイケば楽勝合格かもーと立ち上がった瞬間、あたかもテニスプレイヤーがサーブ打とうと大きく振りかぶった時のように大きく部屋が斜めに回転、ボクは冗談のように畳の上に勢い込んでブッ倒れェ~!!。

何だコレ。

何だ今の。

全身に底なしの疲労感が湧き上がり始める。そしてソレは止まらない。

何だか…。理屈抜きにマズイかもしれない…。

これ以上の絶食は…。

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絶食ダイエット(20) / 浪人生の絶食ダイエット / 生きることを放棄した脳

Title : 顔を出した死神~トゲオ君

 

 

 

絶食ダイエット15日目。

朝10時に起床。夜更かししてラジオの深夜放送を聞いていたら眠れなくなってしもうたのだ。

それというのもカーペンターズの大特集をやっていて、カレン・カーペンターが過酷なダイエットを敢行した挙句に拒食症となり、遂には亡くなってしまったという話を聞いて心底凍りついてしまったからだ。

クワッ!と目を見開けば闇。

途方もなく限界のない大海に独り、小舟に仰向け、これは確かに例の噂の渡し舟!、の気分。

自分も死ぬのでは?!、という至極当然な感想が得られる。

止める。もう止める。絶対止める。

重く鈍い頭で、ヤドカリが新しい貝殻に移行する時に見せる静止を賭けた慎重さをもって布団から這い出てゆく。

「私は死にたくないのです……死にたくない…」

などと半分おふざけで呟いてはみるものの、立ち上がりかけて凄まじい眩暈(メマイ)、そのまま布団に受け身も取れずにブッ倒れる!。

しばらく仰向けのまま天井を見つめる。頃合い伺い、大丈夫そうな気がするので少しずつ起き上がろうと試みる。

もはや気分的なものではない。

明らかにこの体は危険な状態にある。医者でなくても分かるものは分かる。今ボクを診察して「問題ありませんね」などという医者がいたとしたら、それは絶対にヤブだと断言出来るほどの危うさだ。

部屋を出る。台所が薄暗い、テレビの音が聞こえてこない、ということは母外出中。

父母揃って進んだ放任主義、と日頃から高く評価していたこのワタクシであった。

あったが…。何故ここまで危険な状態に至るまで放置していたのであろうか!、などと逆恨みしつつ、遂に絶食ダイエット開始初、全裸となり玄関壁の姿見の前に立つ!。

少ししか痩せてない…。何だよこれ…。

既にボクの脳は正常な判断を全く下せない状況下にあった。

むろん、この時のボクはそれを知らない。

もう十分に痩せていたのだ。

肉体的機能の凄まじい低下はハッキリと認識出来るものの、まさか脳が栄養不足で半死の状態であるなど夢にも思わなかった。だって、ごく普通に物事考えていられるから。

薄暗いキッチンのイスに座し、しばし呆然と時を過ごす。

体重を計ろう。そうだそうだ。

もう。絶食は止めた。んだから。夜まで待つこ。とないんだよ。な。そうだそ。う。だ。今計っ。………てし。ま…

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絶食ダイエット(21) / 浪人生の絶食ダイエット / 拒食症への招待

Title : 拒食症への招待

 

 

 

ボクからの唐突な電話に少々面食らった親友ではあったが、

今日久々にお茶することに同意、高校時代によく通ったジャズ喫茶サテンドールにて待ち合わせの運びとなった。

 

相変わらず薄暗い店内。♪  テイク5 が素晴らしい音源で流れている。

ジャズを聴く場所であるはずだが誰も聴いてないので、ボクも5小節目あたりから聴くのを止め、友(以下、トモと記す)との会話に本腰入れることにした。…のではあるが、

店内は大学生達のワワワワー!、ウワッ、オワワワワワーッ?

の熱気帯びたドンチャン・シンバル会話で激しくカシマしいーこと甚だし!。確かに、その方が静寂よりは遥かにマシではあるのだが…。

絶食による体調異変に戦慄したボクは眠れぬ一夜を過ごし、ただでさえ頼りにならないヘナチョコ身体にムチ打って、市外から市内へのバスに乗り込んだという切羽詰まった小旅行な次第。

今日から栄養摂取を始める!。もう絶食は終わり!。金輪際しない!。

とにかく直ちに何が何でも健康な美しくキラめくティーンエイジャーの本来在るべき姿に復帰するのだ!。

トモに会ってノリノリ話せば気分も昂揚、食もすすむに違いない!との考えから1時間半、トモをダシにバスに揺られてコンニチタダイマ、此処まで何とか到達した訳なのである。

懸念されたメマイでブッ倒れーッ!!、を最も恐れていたボクではあるが、それは気力でどうにか回避出来たようだ。

目の前にあるアイスコーヒーのグラスも時折かすむが、それは暗い店内、席立ち座る慌ただしい大学生らの、漆黒で長い影が幾度も壁の間接灯を遮る(さえぎる)からだと自分にムリムリ言い聞かせている愚か者。

「トーストでも頼もうかな。お前は?」とボク。

「オレはいい」。

何度も手を挙げるがウェイターがこちらを見ない。わざわざソッチへ行くのもガヤガヤ大学生溜まりに阻まれ億劫デス。

イライラ、プンプン、そんなこんなしているうち哀れなボクに気づいた大学生のオニーチャン、

「こっち、呼んでるよーッ!」と頼もしきかな大きな声。

「ありがとうございます」と礼を述べるはボクの笑顔。

「別にいいって(笑)」

さりげなく注文終えてひと安心。よしよし、これで遂に栄養分補給の幕は切って落とされましたよと!。

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絶食ダイエット(22) / 浪人生の絶食ダイエット / 死神を呼ぶ拒食症

Title : 生きるも死ぬも、双子の死神

 

 

 

ボクの胃袋は一体どれほど小さくなっているのだろう。

通常のお守りくらいだったりして、と想像するが笑えない。( 笑えたならシワだらけの笑顔。

それが今のボクの顔。さっきもそれ見た。作り笑顔で… )。

トーストをほんのひとくち食べただけで超満腹になってしまうのならお守りどころか目玉位ではないだろうか。絶食前には全く想像だにしなかった、哀れきわまりない抱腹絶倒状態である。

親にも友達にも極秘にされたボクの崖っぷち、たった独りの意味なし現状。それでも拒食症についてググるつもりは毛頭ない。

恐い。異常に恐い。同じ理由で医者に行く気もない。

恐い。もうダメ。何もかもイヤ。

 

何とかなるはずだ。自力で解決出来るはずだ。元の状態にまで必ずや戻せるはずだ…。

根拠は?。根拠など有ろうはずもない。

ただ、何とかなるんじゃな~い?、というありがちな楽観主義。

甘やかされた自己がいとも簡単に打ち出す最強の方策、それが “ 何とかなる ” 作戦だとは!。

うあーはっはっはっは!!。語るに堕ちたと自虐笑いがひとしきり、それが覚めれば即座に最近売り出し中の死神笑顔。

 

午前中、洗濯物を干している母の眼を盗み、すかさず冷蔵庫を開け食べられそうな品を物色。チーズを見つけ素早く自室へ退却。

包み銀紙を掻きむしり現れた石鹸(チーズではなく石鹸に見える)を口に投入。

されてない。

入らない。

 

チーズが口に入らない。

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絶食ダイエット(23) / 浪人生の絶食ダイエット / 108つのボンノウ

Title : カラッポの男

 

 

 

 

松茸のお吸い物、トマトジュース。

目覚めた瞬間、ボクはデクノ棒なのにブブカ(オリンピック棒高跳びで7回金メダル)の如く激しく跳躍、我が身のブザマな転倒もなく華麗に着地したソコは近所の食料品店。

そんなことを夢想する程にボクは衰弱している。

何とかしないとマジで命が危ないので、飲料水から栄養を摂取する大作戦を展開することに。

昔から慣れ親しんだ味と成分なら身体にも免疫(?)あるのでは?。きっと成功するだろう。

まずトマジューをラッパ飲み。ゴクリン、ゴクゴクリン。

うあーはっはっは!!、どうだ見たか!!、拒絶も出来まい?!、ガンガン入ってくぞ!!。

アッと言う間に500ミリ完飲!!。

少なくとも何がしかの栄養分は摂取されたわけだ。トマトは緑黄色野菜だからねえ~。味覚は鈍感になっている様で美味しさ等ほぼ感じない。

ウォプ!!

飲み終えて約1分、こらえ切れない吐き気!!。たッ大変だ、マッハでトイレに行か…

オエエエエエエエエエーッ!!。

全部排出。ダム排水

。怒涛の排出、吐き始めてから吐き終わるまで、その間僅か1.5秒。

その瞬間にボクは見た。

トマジュー滝に美しい虹が架かるのを。

畳に付いた両手、両膝頭のパジャマぐっしょり。ひえええええ…流動食ダメなら最早お手上げジャン!!。

お終いだあ、もう駄目だあ…。

ふらふら起き上がり台所で雑巾を調達しなきゃなら…、

ドッサン。おったまげメマイで転倒。

オオ!美しき赤きドナウ!。素浪人、吐いたトマトジュースの湖に死す。

小学校の夏休み、私鉄線の全駅巡りスタンプ・ラリーを達成して景品に茹でタマゴをもらったことがあったなああ…。

今、再び自分はトマト朱肉で自らにスタンプ…。愚か者という刻印でしょう、多分…。

 

真昼のシャワー。洗濯機上に置いたパジャマを見たのであろう母の叫び声、

「アンタ、血を吐いたのッ!!。大丈夫なのッ!!」

「トマトジュ…」

大きめの声を上げる体力なし。「大丈夫なのッ!!」

「だい、じょぉぶだよぉ…

バスタオル巻いた姿でキッチンチェアにへたり込む。

「温ったかい吸い物で試してみたら?。胃を温っためれば大丈夫なんじゃなあい?」

湯気立ち上るお椀を手に、再び浴室入りするボク。

全裸で風呂椅子に座り両手でお椀を後生大事に支え持つボクはネアンデルタール人。

現代人から退化する極めて稀なケース。

ラッパ飲みして胃が仰天したんだろうから、今度はチビリチビリ飲む。

初めて猫舌であることが役に立ったわけだな。

全裸なのは再び吐くことを想定しての事。5分程かけて松茸の吸い物なる点滴投与を完了。

あとは様子見。

 

10分くらい?。大丈夫そうなので出る。

もう一杯飲んでも大丈夫そうなので母にリクエスト。

「ええ~?。大丈夫なの?。もう絶食やめたら?」

まるで何も分かってない。まあ、ボクが隠ぺいしてるからなんだけどもネ。

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