絶食ダイエット(15) / 今日も1キロ減った / 痩せたなと言われず

Title: 友達の中でひとりホッカムリ

 

 

 

流石に、高校時代の親友3人からの誘いは断れない。

過酷なダイエット中であろうとも、だ。

市外の片田舎から快速バスで1時間半、約2ヶ月ぶりに

懐かしき市内中心地へ降り立つ。

待ち合わせ場所は、ジャズ喫茶サテンドール。

ここは大学生達の隠れ家的な溜まり場として知られ、

雑居ビル地下の空間は

自由文化論語るヤカラのルツボ、タコツボ、指圧ツボ、

極めて暗い照明に浮かび上がる

レンガ壁の赤が目に染み入る場所であった。

高校生のボクらは度々ここに入り浸り、

オトナな会話を得意げに盗み聴きしては悦に入っていたのだが…。

 

今、想い出深き店の片隅に再び座し、馴染みのダチと差し向かう。

ついこないだと、ちっとも変わらぬこの空気感。

マンネリとも呼べるし、お気に入り登録とも呼べる。

ボクらの間で変わったことと言えば唯ひとつ、

高校生ではなく揃って浪人生だということ。

 

仲間は各々サンドイッチを頼み、

食い意地張ったボクが何も食べモンを注文しない

ことに意外そうな表情を見せるが、

それ以上は何も聞こうとはしなかった。

 

人間は自分が不服とする状況が継続すると口数が減る。

というボクの持論は如何 ( いかが )なものか。

それはともかく、彼らのホッペタがモグモグ動いている光景

に奇妙な不思議さを感じる。

 

何をしているんだろう?

とさえ率直に思えてしまう。

 

何をって食事に決まっているのだが。

ボクが夢見るように眺めているので、友達が

 

「お前も食う?」と尋ねてくれる。

 

「今、チョー満腹。家で焼きソバ、ガッツリ食ってきたから(笑)」

とうそぶく。

そう、彼らには絶食ダイエット中だとは明かしてない。

たぶん信じないし。どっちかに

 

「アレ?!、お前痩せたなァー!!」

 

と驚愕されることを心密かに期待していたのだが、残念ながらナシ。

てことは、全然これっぱかしも

顔のぜい肉は落ちていないってことだよねえ。

それはそうかも…。

顔より体各所にイッパイお肉がついてるわけだから、

ソッチから先に減っていくのが筋ってもんでしょう。

食べない代わりにアイスコーヒーをば2杯。

飲み物だけは制限なし、の掟通り。

ただし完全ブラック。ガムシロップはダメ。

 

脳の栄養は唯一、糖分だけだという。満腹状態でも甘い物は別腹、とは事実。

脳は自分が食事したいので、甘い物が食べられそうな状況になると、

即座に胃への満腹信号を取り消してしまうからなのだ。

以前、深夜放送で仕入れた知識。

 

彼らの浮かない顔は、そっくりそのままボクの顔。

来年志望校に合格する自信がない。

ましてボクなど、彼らの様に毎日予備校へ通うどころか

勉強そっちのけで絶食なんかしてるわけだから、

イカレポンチ度数200といったところ。

 

若さは強い。そして危うい。

空腹感なし、めまいも吐き気もなし。

久々の遠出も体調に一切影響なし。

 

10日目、午後11時、体重測定。

 

きっかり1キログラム減。

つまり体重62キログラム。

あと2日で苦行は終わり。

 

アー、早くその日になんないかナーッ!っと。