絶食ダイエット(4) / ダイエット前より食べる量が増えて / 減量に反抗する身体

Title : キノコのようにニョキニョキ伸びる食欲

 

 

 

7日間絶食作戦。仕切り直しで早3日目。

くじけちゃいかんゼヨ、三度目の正直というではないか。

などと誰しもが思う事を呟きフトンから這い出る。

頭がスッキリし始めるのは起床後2時間。現在ボクは

“ 受験生転換ボクサー ” をカスタマイズ中なので、

ラジオ講座はラジカセで自動録音状態。

家族の者達はボクの挫折事実など一切認識していない。

悲しいほど当然である。

 

食卓での絶食宣言以降、ボクは普通に彼らと食事を共にしているのだから。

まだダイエットの既成事実がない以上、

この2日間の失敗はリセットと呼べない。

 

つまり、ボクは今日初めて絶食を始める、

ということで宜しいんじゃないでしょうかね。やり直しではない。

今日初チャレンジ。始めるにあたり、秘策もある。

脳は目の一部。当たり前だが目は耳ではない。

にもかかわらず、ボクは鏡に映る自身の眼を見つめ、

こともあろうに語ってしまったのだ。

「絶食する」と。

 

その間、ボクの耳は1人密かに、いや、耳は2つだから、

ボクの耳は2人密かに持ち主であるところのボクを

あざ笑っていたに違いない。右耳がボクの口調を真似て

 

「あのぅ~、ワタシは脳の一部じゃないんですけどぉ~」。

 

すると左耳がドッと笑う、みたいな…。

まあいい。とにかく、目は脳の一部。目は見るためのものなのだから、

絶食に全面的に協力してもらう為には、

視覚に訴えなければならないわけだ。

 

ダイエット効果として、太っている自分の写真を壁に貼って毎日眺め、

自己嫌悪を誘発して食の誘惑に打ち勝つ、という話を小耳に挟む。

これでは脳の感情面を担当する作業員の同情は買えるかもしれないが、

前述の通り、我が敵は脳の生存本能。

重大欲望部門に勤務している作業員達なのだ。

 

恐らく3名と思われる。すなわち、食欲、性欲、睡眠欲、

の三大欲望に各々従事するエキスパート達だ。

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絶食ダイエット(5) / 食欲が出たり出なかったり / 脳に暗示をかけたい

Title : 食欲なんてコントロール出来まへんよ

 

 

 

翌朝、ビックリ箱から飛び出したバネ仕掛けピエロ

さながらに布団から躍り出る。

正面壁に貼られたカレンダーにすがりつく悦び!!。

 

昨夜、就寝布団の中、眠りに落ちる直前にウットリ夢見た至福タイム

が遂に到来!!。赤マジック(極太)手に取り

 

絶食初日 ◎

 

と、一字一字を懇切丁寧に書き込む。

書いている間は呼吸が止まっていたらしく、描き終えた瞬間

「ハハァゼェェーッ!!」と呼吸困難に陥る。

それがどうした?、いいえ別にィ~、どうもしませんが、何か?、

などと得意の絶頂で1人漫談。

 

昨日、ボクの口を通過したものは温かい麦茶オンリー。

むろん、ガブ飲みして腹を水ッ腹にして飢えをしのぐ、

などという代償行為は一切していない。

通常の人の飲料と何ら変わらなかったハズ。

そういった意味では、ボクは王道ゼッショッカーと自分を讃えたい。

だがしかし、と眉間にシワが寄る。

昨夜のボクは奇妙なほどに空腹感を感じなかった。

 

当然絶食成功理由はそれに尽きるのだが、

ボクは本当にアカの他人であるところの

脳内食欲専任作業員と、7日間絶食契約を締結出来ているのだろうか。

 

こんな時、脳内食欲部門から

“ 健康絶食ダイエットを受け付けました”

とメール返信が来れば安心なのだが…。

などツラツラ考えるうち、突如として閃く。

 

違う違う違う!。ボクは自身の脳と契約など締結していない!。

ボクが行ったのは “ 暗示 ”!だ。

 

脳内食欲担当作業員に暗示をかけたのだ!。具体的に言えば、

ボクは作業員を温泉か何処かへ連れてゆき、彼を入浴させたのだ。

つまり “ 洗脳 ” したのだ!。

“ 眼は心の窓 ” という。

だとすれば、心の所在は胸ではなくて脳ということになる。

 

心とは、自分と自分以外の第三者とを比較検討し、

その結果や結論からもたらされる感情の状態を指す、ような気がする。

ブッチャケ、ボクとアイツを比較する。

アイツはイケメン、ボク違う。

ボクが片思いのカノジョはアイツが好き。とボクが結論づけたとする。

当然、無性に腹が立つ、

もしくは羨ましい、ねたましい、憧れる、その他もろもろ。

眼は心の窓だから、アイツを見るボクの眼は、妬みの眼差しか憧れの眼差し。

これらは脳内の感情や情緒部門が始発だから、

ダイエットはココに訴えてもダメ。まず90パーセント失敗する。

何故なら、自分の感情を完全コントロール出来る人間なんて居ないから。

 

心はアヤフヤなもの。感情だってコロコロ変わる。

そんな不確かな脳内感情部門専任作業員を洗脳するなんて絶対無理。

この作業員はチャランポランな奴。別の意味で、

生存本能部門より御しがたい男。

多くの人々がダイエット開始の窓口で早々に失敗するのは、

最初のアクセス先が間違っているからではなかろうか!。

 

絶食ダイエット開始にあたり、

ボクは脳サーバー内のアクセス先を間違えなかった。両目のURLに正しくアクセスした。

絶食キーワードの

“ 健康 ”

もキチンと打ち込んだ。食欲生存本能の一時無効化に成功したのだ。

結果、昨夜は耐えられる範囲内の食欲しか自覚しなかった。

この状況を連日維持出来るなら目標貫徹、達成出来そうだ。

だがしかし、本当にマグレではないのだろうか。たまたまではないのか。

ボクは不安にかられ、再び大学ノートに絶食キーワードを速射撃ちし続けた。

ノート5枚。

夕暮れがボクの腹部へ忍び寄った刹那、ボクの顔に戦慄が走った。

異常な食への渇望が湧き上がってくる!!。次から次へと!!

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(6) / 空腹を紛らわす方法 / 呼吸を止めてガマンして

Title : 空腹で注意力ばらばら

 

 

 

絶食ダイエット2日目。

 

朝食抜きは長年のルーティーンだし、さして昼食も特別な食の要求はなし。

こいつァー前日続きで調子がイイぞォ~、

と思っていたところへ衝撃の魔の刻。

 

台所から食欲そそる匂いがボクの自室に届いてきたわけでなし、

美味しい食べ物を思い描いていたわけでもない。

突然に、そのスイッチが入ったのだ!。

 

夜6時半、全身が震える程の空腹感。瞬時にして

 

“もうダメだ!。

絶食はおろかダイエットなんて

これっぽっちも無理だ不能だ不可能だ!! ”

と、観念してしまう程の凄まじい飢餓感!!。

 

机に向かいイスに座し、何とか魔の刻やり過ごそうと抗うボクだったが、

アリャリャ?、自分の意志とは無関係にスックと立ち上がってしまった。

まさしく本能の成せるワザ。

 

アア、これか。生存本能起動か。

時間が来て録画予約番組がスタートし

自動的にTVのスイッチが入るように、

それはあらかじめ約束されていたところの

“ 生存本能 / 食欲カテゴリの更新と実行 ” の自動インストゥール。

 

いや、ボクもコレを全く予期しなかったわけではない。

でもボクはティーンエイジャー。自分中心に物事を決めがち。

決めたい。だから、それは無いっしょ、で目をつぶった。

その反面で対応策はウッスラと用意。

受験生ならば滑り止めは用意するもの。

それを実践しよう。

 

脳ミソという主人。その御方にに大目玉をくらった食欲部門専任作業員は

ハタと我に返り、直ちに飢餓警報をボクの身体全機関に発令。

その音色は最優先事項を示す。

ウワワワォォォ~ン。

全血管中の赤血球や白血球、血小板が

 

「食わせろーッ」

 

と激怒で煮えたぎり始める。

全身の筋肉が張りつめ、その皮膚には畏怖の鳥肌総ウブ毛立ち。

胃袋は絶望的な面持ちでしゃがみこみ、肺はシャックリ寸前、

腸はひきつけ寸前、自分の意に反して何度も喉が鳴る。

いてもたってもいられなくなったボク、自室脱出!。

 

「ちょっと散歩ッ」

 

言い放つや食卓に背を向けスニーカーつっかけ外へ!。

無一文だから買い食い不可。

既に、全身が食べる行為への渇望に完全支配されている。

今、何かひとつでも自分の好物を脳裏に思い描いたが最後、

昨日今日のボクの企ては水泡に帰してしまう。

 

「満腹、満腹!、アーお腹一杯だぁー」

などと、うそぶいても無駄。

耳は脳ではない。眼!。眼は脳だから、コヤツらに何かを見せなければ!!。

きびすを返して自宅に戻り、また大学ノートに書くか?!。

イヤ、駄目だ駄目だ、それが通用しなかったから今こうなっている。

アレしかない!!。

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絶食ダイエット(7) / 突然に凄い空腹感 / 腹ペコを紛らわすためにコクる

Title : 今なら5枚は一気喰いが出来る3種のチーズピザ

 

 

 

問題の3日目…。

何が問題なのか分からないが、そんな心持で憂鬱なアクビ。

でもサー、もともと寝つきが凄く悪い割には、眠れてるかも。

エネルギー不足なのね?と微笑。オオ!いいジャン、微笑するなんてッ。

余裕をカマしてるねぇ~キミッ。と口走った瞬間、

全身に冷水浴びせかけられた思い。

 

受験勉強どうしたの?、そんだけ余裕なら合格間違いなしなのねぇ~?。

焦る。マジ、シャレにならない。もう1日たりとも無駄に出来ない。

つまり、ダイエット失敗でスゴロクよろしく、

モノポリーよろしく “ 最初に戻る ” なんて猶予は一切なし!。

 

カレンダーに

2日目◎

と、ご報告。なのにホワイ?。今日は盛り上がらないボクの心。

気がかりなことが有る証拠。今日1日、見事に持ちこたえられるだろうか。

自信がない…。

 

周囲が見えなくなる程、何かに集中しているとする。

その間、ブッ続けの2時間だったとする。

ア~ッ、終わったァーッ!と一気に緊張が解けた瞬間、

到底こらえきれない尿意に襲われトイレに駆けこむ、

なんて経験あるんじゃない?。

それッて脳がボーコーさんに命令してたからじゃない?。

 

「今コヤツは夢中でコレをやってるから、オマエ ( ボーコー) は

余計な口出しするんじゃない。いいな?」つて。

 

ガマン出来なくなるまで用足し欲求を感じなかった、

なんて信じられない!。脳ミソってスーパーマジシャンなの?。

米海兵隊合言葉の

“ 臨機応変であります!! ”

ってかい。それなら納得。

昨日のボクは、湧き上がる飢餓感を別の苦しさにすり替えて

脳の指示出しを上書きしたのかも。

でも脳は頭がいい。ボクと違ってジックリ考えるタイプ。

だから同じ手は決して通用しないだろう。

何か効果的な代案があるだろうか。ううむ…。ない。

ヤだな怖いジャン。どえりゃあ、マズいジャン。

 

お腹減ったァーッ!!

のオーダーしてこないボクのポッテリお腹。

昨日もそうだったなァ~この時間帯、と掛け時計見上げる。

午後2時15分。

すかさず、絶食ダイエット強行中のフレンドから電話。

 

「ピザ食いに行かね?」

 

行かね?ってチョットあんたねえ~、察しなさいよと言いたくも

インフォしてないもんねェ…。

 

午後3時。

突如、映画 “ ジョーズ ” の巨大ホオジロザメが

大口開けて海面に飛び出してきたような腹ペコ感!にドギモ抜かれる!。

また来たァァァーッ、サプライズショック Var-2!!。

反射的に立ち上がり、半身くの字に前かがみ、

思わず両腕で自分の腹部をロック!。

何だそりゃ、刺しこみじゃないでしょーが、

などと微笑ネタ。ダメだ笑えない!。

いかん、このままでは3分後に間違いなく

食物に大口開けて襲いかかっている!!。

どうする、どーする!!。ヒェェェーッ!!。

 

突拍子もないアイデアが閃く。

 

中学時に片思いだった麗しのカノジョにッ、

とうとう最後の最後まで勇気がなくて打ち明けられなかった熱い思いを

カノジョに告白したらどうだろうかッ?!、ダメだろうかねッ?!、

などと無言で叫ぶ。誰に聞いてんだか分からないが、

とッ、とッ、とにかくッ!!。カノジョはブティックで働いている。

検索しお店にマッハで電話。

 

「はい」

 

「アッ!。あの、◇◇さん居ますかボク△△で…

 

「ああ、あたしですけど(笑)」

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絶食ダイエット(8) / 全裸で体重測定 / 絶食3日で体重減らず

Title : 減量中につき入店不可

 

 

 

自己嫌悪な独演会、悲恋ものを見事に演じきった虚脱感からか、

寝ては覚めての繰り返し。

ボウッとするがロクな運動もしないボク、エエイ起きてしまえッ。

立ち上がりかけ足首に絡みつく布団に引っ張られ、

バランス崩し机の角にヒジをぶつける。結構痛いッ。

絶食で体力が相当低下しているのだろうか。

 

やや不安になるが、そうだそうだ、

荒行のお坊さん達だって経験しているんだし大丈夫。いや待てよ、

あの方々は日々体を鍛えているから大丈夫なのでは?。まあそうなのかも…。

そんなことより今日はボクにとって特別な日。

誕生日でもイヴでも元旦でもない。

絶食3日間ごとに体重を計測する!。ハナからそう決めていた。

今日は4日目の朝だから。異様な程の昂ぶりみせるボクのハート。

 

神聖なる計量儀式を執り行う前に、まずはカレンダーに

◎を記入。

ああそうか…と赤マジックを極細黒ペンに持ち替え、

1文字が縦横5ミリ×5ミリの大きさで

SB と書き込む。

自分的には S (失恋) B (ブティック) なる暗号のつもり。

SB (ショッキング・ボーイ)、さよならばっかし、でもなんでも良い。

自虐の戒めコードということだ。

とにもかくにも物置コーナーから体重計をズルズルと引っ張り出す。

 

「オフオフッ」舞い上がるチリに軽く咳き込む。誰も使ってないもんなァ。

コレ防水だっけ?。水洗いして壊れちゃ敵わないから雑巾で水拭き?。

バカな。尊い儀式に汚れた台座などあり得ない。

母は外出中みたいだからと真新しい純白のタオルをかすめ取り、

水に浸して我が友に磨きをかける。その間5分くらいか。

両手に不快なだるさを感じる。え?、これしきのことで?。

やはり体力が異様に低下しているのかもしれない。

ドライヤーで足乗せ台を丹念に乾かし、準備は整った。

安定性から当然フローリング上に体重計を設置。

全裸計測を余儀なくされるので、玄関ドア真正面延長線上ではなく、

ドアから見て左に折れるキッチン角が良いだろう。

万が一、測定中に母が帰宅してもボクの姿は見えず、

マッハでキッチンテーブルに置いたパンツを穿く時間は十分にある。

 

スッポンポンで、おごそかに判決台に上がるケナゲな青年。

針が小刻みに左右揺れを続ける。

安定するまで少し待つ。もういーかいッ?。

もうーいいーよッ!。

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絶食ダイエット(9) / 絶食4日で体重減らず / 身体の感覚がおかしい

Title : ダイエットの大敵、その香り!

 

 

 

絶食5日目、am9:00。

気絶就寝 ( 寝床に入りバタンキュー睡眠、の人は失神に近い状態である、と言われている )

から意識を取り戻したボクは、早送りの “ 起き上がり小法師 ” ( 福島県の郷土オモチャ )よろしく起床ーッ!。

3日間に渡る絶食にも関わらず、何故体重が1グラムたりとも減っていなかったのか?!。

ググッてみればと言うかもしれない。しかしそれでは面白くない。

手に汗握る一進一退の攻防は、最初から最後までボク1人だけの戦いなのだ。

それこそが、アンポンタンなボクが手にすることが出来るかもしれない、

絶食貫徹の名誉に添えられる唯一の花なのだから!。

などとブツブツ言いながらカレンダーに

待てよ!。4日クリアってことはだよ、

期間折り返し地点を過ぎたってことでないの?!。

やったーッ!!。両手バンザイ、ガッツポーズ。

んッ?、寒いッ。両手限界まで上げたから、

シャツとパジャマが浮いちゃってお腹半出しでないの!。

このパジャマ洗い過ぎて縮んじゃってんのよねぇ。

でもお気に入りだから絶対新しいの買わないッ。

そんなことより体重計。ただちに計測。また70㎏なんてったら許さない!。

と、自室の机の下にキープしておいた裏切者のソイツを抱え

測定場所である台所へ。昨日と違い母が目の前。

 

「何ですかアナタは。後生大事に体重計抱えてぇ~」

「ワタシのことは放っておいて下さい」

「放ってあるわよー、常にー」

 

母は昆布飴をくっちゃらくっちゃら。ゴクン!、と巨大な音で喉が鳴り、

その音に仰天するボク。しかし母は気にも留めず新聞を読んでいる。

どうやらボクにだけ聞こえたようだ。

何だかなー。物を一切食べなくなったら体の感覚が非常におかしい。

間違いなく異常な世界に入り込んでいる気がする。

でも残りあと3日じゃないの。

気を取り直して体重計をセット。

ゴルファーがスイング前に微妙なスタンディングチェックやるじゃない?。

あんな感じでマジ顔セット。母の前、まさか全裸になるわけにもいかず、

仕方なしにパジャマ姿のまま乗っかる。

 

「何キロ減った?」

と新聞に目を落としたままPTA。

「静かにッ!」

 

左右小刻みに震えている針が止まった。ゆっくり視線を落とす。

 

70・1キログラム。

 

灼熱のマグマの様に、凄まじい怒りがボクの足元から急激に噴出!!。

それに乗ったなら、

ボクは一直線に月まで瞬時に到達したであろう

程の激憤!!。その瞬間、ボクの頭をよぎる声。

 

奥さん、ジャガイモの芽、どうやって取ってらっしゃるのぉ~?。

 

昨日散歩中に八百屋の前で聞いた会話だ。何で今そんなのが出てくるのか!!。

おかしい。何もかもがおかしい。何かが狂っている。

 

「ちょっと体重計に乗ってみて」とイラ立ち、母に告げるボク。

 

「ヤァーよ!」

「え?。何で。それくらいいいジャン」

「ヤァーだァ」

 

非協力的な家族。非協力的な体重計。ボクは四面楚歌なのか。

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(10) / 絶食5日で体重減らず / 飲み水だけなのに減量出来ない

Title : 赤味が腹に染みる…

 

 

絶食6日目、朝10時ジャスト。

期待と不安、興奮で毛細血管破裂、鼻血まみれで体重測定せねばならぬ

覚悟で体重計に乗ったボク。

この時ほど神の存在を身近に感じたことは過去に無し。

“ 溺れる者はワラをも掴む ” (日本のコトワザ)。

ボクの様な未熟者には

“ 溺れるタコは漁師をも掴む ” がお似合いだろう。

タコが溺れるはずもない。そのタコが溺れている。あり得ない…。

 

絶食5日間。

口にしたのは、日本茶、ブラックコーヒー、水。それだけ…。

飲み水だけなのに減量出来ない。

それだけなのに体重が1グラムたりとも減らないミステリー…。

悔しさのあまり唇を噛まずにはいられないッしょ~?!。

海面でタコが溺れかけワァーワァーやっていると、

たまたま通りかかった小さな漁船がタコに優しく手を差し伸べる。

漁師といえばタコの天敵。

それを承知で差し伸べられた手に吸盤をシッカと張り付けるタコ…。

物悲しい光景だ。

聖書を読んだこともないボクが唐突に神にすがる。

神は人間の天敵ではないが、果たしてボクにはどうだろう。

1日の糧 ( かて ) に感謝するどころか拒絶。

さしたる重大な理由が有るでもなしに…。

 

神の怒りに触れたのだ。でなければ、

こんな異常現象が起こりうるはずなどないではないか。

今ほどボクは、ハムレットなる人物を身近に感じたことはない。

“ 生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ ”

なわけで、神様やハムレット様に強く強くお願いしながら、

両目を固く閉じ測定に挑む。

 

「お願いお願いお願いします!!!!!!。1キロでいいですから減ってて下さい!!!!!!!」

 

70.1キログラム ( 前日と同じく春物パジャマ着用 )

 

ガックリと頭 ( こうべ ) 垂れ、ふらふらとキッチン。

ドッサリとイスに身を投げ出す。

 

アレ?。母親は外出だったか。じゃ全裸測定出来たあ~。

フッ(自虐笑)。体重減らないんだから無駄ジャンそんなの。

きっと全身の肉をヌイグルミよろしく脱ぎ捨て、

骨だけで体重計に乗っても70キロなんだゼ!。

去年、三日連続の寝正月、最高にドカ食いした時

たちまち3キロ太ったじゃないの!。

増えるのはマッハで、何でぜい肉だけはダメなの?。おせ~て ( 教えて )。

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絶食ダイエット(11) / 体重70kgが翌日65kgに / 体力がなくなり減量開始

Title : 気分は真空管の中で大口開け涙ァ~

 

 

 

絶食6日目。

何てこったい!。明日1日を前にして、

よりによって何故今日なんだ、ローストビーフなんだ!。

玉ねぎすりおろしたタレに浸された、香ばしい牛肉を口に含む幻覚が脳裏をかすめる。

瞬間口内一面に広がる奇異なシビレ。何これ。変なの…。

 

ボクの部屋は和室。だから入口はフスマ。立て付けが悪くなってきているので、

ピッチリ閉めた状態でフスマ上部と壁との間に

2~3ミリの隙間があると見てとれる。

イカン。ここから、決して抗いきれぬ魅惑の香りが流入してしまう。

玉ねぎソース制作完成まで約1時間といったところか。

ボクは台所の音から夕食支度の進行状況を割り出し、さあこれから食べますよの10分前にトイレ。

話しかけようとする母の言葉も聞き取れぬ速さで自室撤退。

 

ガムテープを手にフスマと壁との隙間に素早く目張り。

注意深く見事にやってのける。

PCにヘッドホンを装着、スイッチオン。同時に消灯、

布団に寝そべりボリュームアップ。

 

ハロー暗闇さん、また君と話しに来ちゃったんだねえ~。

とサイモン&ガーファンクルのサウンド・オブ・サイレンスが流れている。

映画【卒業】では、主役のダスティ・ホフマンが

タブーと純愛のハザマで揺れる多感な青春期の情緒と感情を見事に演じてみせた。

それに引き換えボクは、タブー( 絶食ダイエット ) とローストビーフのハザマで

揺れる多感な青春期の食欲とひもじさを、見事に演じているとは言えまいか。

3曲目あたりでフスマをたたく音。ヘッドホンを外す。

 

「兄貴。食べないの?」

 

「だっからサー、食べないって言っておいただろーッ!」

プンプン!。再び世界最高峰デュオの世界へ。

 

仰向けで聴いていると段々と腹の肉が沈んでゆき、

内臓が布団に接触してゆく様な感覚に襲われた。

寝返りうち体勢を横向きに…。

今度はいいようだ。しかし一刻も早く明日になってほ…し……

 

ハッ。何だ。うんッ?。………。寝てたのか。寝ちゃったのか!。

今何時ぃ?と卓上の時計を見やると11時!。

おお、明日に近づいているではないか、とガムテープ引っぺがし独房を脱出。

 

暗い台所の玉ねぎソースの残り香。食欲をそそるものではない。

散った桜の花びらが水溜りに浮いていても誰も風情を感じないのだ。

 

家族は居間でテレビを見ている。

ボクはけだるそうに、インスタントコーヒーでも飲もうかなと

ヤカンに水入れ火にかける。

イスにドッサリと身を落とせば、空っぽの胃袋が体内でバウンド。

アーア…。一体何やってんだかねえ~。

お湯が沸くまで暇だからサー、体重でも計んない~?。

それでサー、それでサー、自虐気分でコーヒーすするんだよぉぉぉぉ~う。

 

「い~ジャンね~」とフラッと立ち、自室から体重計持ってカムバック。

あまりの重さに「腕もげそうでないの」

ガシャ。

体重計をぞんざいに置き直ちに計測。

も~いいの。いいのです。テキトーで…。

 

65キログラム。

 

は?………。全身に戦慄が走る。

ムシズが走ると言った方が的確かもしれない。

65キログラム。6565656565656565656565656565655665656565656565656565656565……

思考停止思考停止、自室から例のハンドダンベルを手に

きびすを返し体重計に乗せる。

壊れてない壊れてない壊れてないッ、と再び体重計に飛び乗る。

震える針。

止まれ止まれ止まれ早くッ!!

 

65キログラム。

 

昨日の測定で体重は約70キロ。

今日は65キロ!!。

何だ、どういうことだ、あり得ない、こんな夢のよ……

 

ピィィィィィーッ!!。

耳をつんざくケトルの悲鳴。

 

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(12) / ポリープが出来た歌手の話 / 潜在意識の勘違い

Title : 空腹で目がグルグル回る

 

 

 

7日間絶食ダイエット最終日…。感無量である。

飲料水のみで連続5日半、体重70キログラムは1キロたりとも減らなかった。

それは、18歳のアコヤ胸奥で息づく真珠の熱情に、煮えたぎる緑茶を浴びせかけるに等しい仕打ちであった(ボクは緑茶が苦手なもんで)。

誰がこんなひどい仕打ちをボクに?。ああ、それは既に特定済みだ。

その者こそがボクの脳。これまで何度も指摘した、我が最愛にして最悪の脳生存本能の成せるワザ!。

5日半、ほとんど一切の栄養(唯一コーヒーと水から何がしかの栄養素)が身体に取り込まれなかったという事実…。

肉体の指令塔であるブレインは、眉間にシワ寄せ恐怖の戦慄におののいていたに違いない。ゆえに、ボクの全身体の隅々にまで戒厳令を敷き、こう命じた。

「現状ヲ維持セヨ。持チ応エヨ。崩壊ニ備エヨ。最高レベル警戒態勢ヲトレ」

と。ボクの全肉体器官はドミノ倒しで命令厳守。果たしてそんなこと出来るのか。可能なのだろうか。こういう話がある。

 

ある有名歌手の喉にポリ-プが出来た。その除去手術に大した危険性はない。

なんなく手術を終えた執刀医は

「ああ、これで終わりだ」と安堵の声。

この時ちょうど麻酔が切れかけていて、歌手の潜在意識が寝ぼけマナコで半分起きかけていたのだ。ああ、何という悲劇だろう!。

幼児に等しい潜在意識は勘違いしてしまった。

自分(歌手)の歌手生命はこれでお終い、だと。

 

やがて麻酔は切れ、歌手は意識を取り戻す。

潜在意識にスリコミが行われてしまったことなど全く自覚していない。

催眠術が解けた時、かけられていた間の記憶が全くないのと同じ。

「もう大丈夫、すぐにも熱唱出来るようになりますよ」

医師の笑顔に歌手も大満足。

先生の太鼓判、アア安心!。と確信したのは歌手の脳表面意識。

人が自分を認識するのは表面意識だ。人は自分の潜在意識の中に何が入っているのか全く知らない。術後回復期間が過ぎた。手術は成功している。

 

歌手は声が出なくなった。

 

医師達の誰1人として原因を特定することが出来なかった。

絶望した歌手が最後にすがったのは高名な心理療法士。

彼はおびただしい催眠療法対話の果て、遂に原因究明を果たす。

歌手の意志や思考である大人の表面意識を眠らせ、幼児の潜在意識だけを起こしたまま、ソレとガマン強い対話を繰り返し、遂にキーワードを引き出させたのだ。

 

「だって、もうお終いだって言われたもん」

 

小耳に挟んだこの実話が事実なら、今回の脳戒厳令はまさしく可能。ボクの考えはこうだ。

“ 笑う門(かど)には福来たる ” という有名なコトワザがある。でもボクは付け加えたい。

“ 笑い声はするのに、門がどこにあるのか見つけられず焦る福 ”

 

そういう落とし穴もあるのだと。ボクは見事に落ちた。

体重は毎日、コンスタントに減ってゆくものだとばかり思い込んでいたから…。

ボクの肉体全機関が全ての体力を使い果たし、もうこれ以上持ちこたえられない、と限界に達した時、身体はボクに隠していた体重5キロ減を発表した。

最初から見せてくれれば良かったのに…。でも、脳の中に住む誰かさんは、絶食1週間が我が身体に健康をもたらすなどと思ってもみなかった。

それを知っていたのは脳内にある表面意識だけ。

では、戒厳令を陣頭指揮した住人は一体誰だったのか。

そうです。アブちゃんを付け、オシメもさえ取れていないかもしれない、愛おしいボクの潜在意識だったのです。バブ。

 

次回より、いよいよ絶食ダイエットの本編へと突入してゆきます。

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(13) / 絶食継続を決定 / とりつかれ始めて

Title : わきあがる欲望マンダラ

 

 

生涯初の7日間絶食ダイエットは終わった。

70キログラムから65キログラムがその成果…。

この数字を上々とみるか妥当とみるか。

恐らく敢行した主人公のほとんどが

ソレを不服と見なすのではあるまいか。

労多くして成果チョビ。

本人には大それたことをやってのけたという自負がある。

 

「えええええッ?! 、たったこれっぽちなの?!」とブーイング。

 

人とは何と欲深き動物なのであろう。コレが叶えば次はソレ、ソレが叶えば次はアレ。

ほんのささやかな願望のはずが、いつしか気持ちはブレ、

自身の正体が欲深だとバレ、悪ビレもせずに「もっともっと!!」と手を伸ばす。

これを “ バビブベボ ” のカルマ法則と呼ぶ。

ベレとボレはどうしたと追及されるかもしれないが、

思いつかなかったのだから仕方ない。

 

突如5キロ減ということは、まだ減るかもしれない、と考えるのは自然なこと。

それを7日が過ぎたからといって食事復活で台無しにして良いものだろうか?。

バカな。そんな愚かなことがどうして出来よう。

これまでの苦労の結実を、僅かたりとも

ないがしろになど出来はしないのだ。

ボクはこれまでに、オヒツに残った数粒の米に

注意を払ったことなど1度もない。ありがたみを感じなかったのだ。

それはお百姓さんが汗水垂らし手塩にかけて育てた物で、

それを買えたのは父が汗水流して働いたから。

それを炊いたのは母であって、ボクはただ食べただけ。

感謝もせず、当然の様にふんぞり返り、誰のことをも顧 (かえり) みない。

 

だから絶食を継続することにした。

って今までのザンゲとどういう関係があるの?、と思われるかもしれない。

んーッ。自分への罰?。それってもろ偽善。反省!…。

もう少しヤセてみようよ、ネ?。うん、ボク頑張るッ。

というだけのことであったか!。

とにかく、とりあえず、今日1日絶食して結果が見たい。

結果次第で今後どうするかを決める。

ためらわずに絶食続行を決められるのは

空腹感、それが失せたから。

空腹をほぼ感じなくなった。

 

昨夜就寝前に気づいたのだ。ティーンエイジャ-の無謀な無敵さ。

それはチョットしたエピーソードで拍車がかかってしまう。

空腹感の伝達が生存本能の要。命。

それを全く感じなくなったということに

戦慄しなければならなかったはずなのに。

アンポンなボクったら、嬉々としてマラソン折り返し地点を

ターンしてしまった。アンポンターン。

 

絶食8日目、午後11時体重測定。64キログラム。

ゆっくり体重計下りるパジャマを着た大タワケ。

その口元に、愚かな笑み。