Title : 赤味が腹に染みる…
絶食6日目、朝10時ジャスト。
期待と不安、興奮で毛細血管破裂、鼻血まみれで体重測定せねばならぬ
覚悟で体重計に乗ったボク。
この時ほど神の存在を身近に感じたことは過去に無し。
“ 溺れる者はワラをも掴む ” (日本のコトワザ)。
ボクの様な未熟者には
“ 溺れるタコは漁師をも掴む ” がお似合いだろう。
タコが溺れるはずもない。そのタコが溺れている。あり得ない…。
絶食5日間。
口にしたのは、日本茶、ブラックコーヒー、水。それだけ…。
飲み水だけなのに減量出来ない。
それだけなのに体重が1グラムたりとも減らないミステリー…。
悔しさのあまり唇を噛まずにはいられないッしょ~?!。
海面でタコが溺れかけワァーワァーやっていると、
たまたま通りかかった小さな漁船がタコに優しく手を差し伸べる。
漁師といえばタコの天敵。
それを承知で差し伸べられた手に吸盤をシッカと張り付けるタコ…。
物悲しい光景だ。
聖書を読んだこともないボクが唐突に神にすがる。
神は人間の天敵ではないが、果たしてボクにはどうだろう。
1日の糧 ( かて ) に感謝するどころか拒絶。
さしたる重大な理由が有るでもなしに…。
神の怒りに触れたのだ。でなければ、
こんな異常現象が起こりうるはずなどないではないか。
今ほどボクは、ハムレットなる人物を身近に感じたことはない。
“ 生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ ”
なわけで、神様やハムレット様に強く強くお願いしながら、
両目を固く閉じ測定に挑む。
「お願いお願いお願いします!!!!!!。1キロでいいですから減ってて下さい!!!!!!!」
70.1キログラム ( 前日と同じく春物パジャマ着用 )
ガックリと頭 ( こうべ ) 垂れ、ふらふらとキッチン。
ドッサリとイスに身を投げ出す。
アレ?。母親は外出だったか。じゃ全裸測定出来たあ~。
フッ(自虐笑)。体重減らないんだから無駄ジャンそんなの。
きっと全身の肉をヌイグルミよろしく脱ぎ捨て、
骨だけで体重計に乗っても70キロなんだゼ!。
去年、三日連続の寝正月、最高にドカ食いした時
たちまち3キロ太ったじゃないの!。
増えるのはマッハで、何でぜい肉だけはダメなの?。おせ~て ( 教えて )。
空前絶後のバカバカしさ!。
ボクが敬愛する詩人であるところの北原白秋先生、詩の中で、
花より先に実のなるような生き方をしちゃダメだって、
おっしゃられてた。ウウ~ム、そうだそうだ!その通り!
と感激していたボクチンなのに、
今まさに全力投球でデタラメ祭り真っ最中でないの!。
アーイヤだイヤだ、もう金輪際
こんな伊達酔狂 ( だてすいきょう ) はお断りだ!。
純粋な青年の、思春期の情熱を、
ひたむきな願いを何故打ち砕くのか!。
絶食は止め!。ただちにヤメ!!。
なのだが明日1日で1週間。すると体の毒素が排出されて健康体になります、
とお坊様がおっしゃられてましたね?。
ならば、続けることが御仏 ( みほとけ ) への礼儀ではありませんか?。
おっしゃる通りでございます。明日、満願成就。
本日は体が絶食状態に慣れてきたせいか、強い憤り(いきどおり)のせいか、
苦労せずとも空腹に耐えられる状態を維持したまま、
夕方へとゴロリン転がるポンポコダヌキ。
だが、空腹ガマン出来たって嬉しくも何ともない。
中が暗くて全然見えない洞窟見つけて、どのくらい長いかな?、
と小石を軽く投げてみたとする。
耳を澄ませども音はなし。今度はチョット強めに飛距離出してみる。
シーン。
おや?。ひょっとして相当長いのかなと振りかぶって小石遠投ッ!。
シーン。
どんなに投げてもノレンに腕押し。シャドウボクシング。無い袖は振れない。
つまり、アナタのPCは応答しておりません、だ。ハハッ。
母帰宅。
「前もって言っとくけど、今晩はローストビーフだからね。アンタ大好物でしょ?。もう絶食止めたら?」
血の気が引くボク。
「超高級料理だねぇ~。何かいいことあったとか?」
「そう。◇◇ ( 弟 ) がバスケで優勝したからお祝いなのよー。
優勝したらローストビーフって約束しちゃってたからー」
唇噛みしめるボク。
神は私を試しておられるのだ。それとも悪魔が誘惑しているのか。
全身に突如汗が吹き出し始める。カァッと燃えるように熱い。マジで!。
感情面からきているのではないな、コレは。
明らかに身体に異変が起きているようだ。