Title : キノコのようにニョキニョキ伸びる食欲
7日間絶食作戦。仕切り直しで早3日目。
くじけちゃいかんゼヨ、三度目の正直というではないか。
などと誰しもが思う事を呟きフトンから這い出る。
頭がスッキリし始めるのは起床後2時間。現在ボクは
“ 受験生転換ボクサー ” をカスタマイズ中なので、
ラジオ講座はラジカセで自動録音状態。
家族の者達はボクの挫折事実など一切認識していない。
悲しいほど当然である。
食卓での絶食宣言以降、ボクは普通に彼らと食事を共にしているのだから。
まだダイエットの既成事実がない以上、
この2日間の失敗はリセットと呼べない。
つまり、ボクは今日初めて絶食を始める、
ということで宜しいんじゃないでしょうかね。やり直しではない。
今日初チャレンジ。始めるにあたり、秘策もある。
脳は目の一部。当たり前だが目は耳ではない。
にもかかわらず、ボクは鏡に映る自身の眼を見つめ、
こともあろうに語ってしまったのだ。
「絶食する」と。
その間、ボクの耳は1人密かに、いや、耳は2つだから、
ボクの耳は2人密かに持ち主であるところのボクを
あざ笑っていたに違いない。右耳がボクの口調を真似て
「あのぅ~、ワタシは脳の一部じゃないんですけどぉ~」。
すると左耳がドッと笑う、みたいな…。
まあいい。とにかく、目は脳の一部。目は見るためのものなのだから、
絶食に全面的に協力してもらう為には、
視覚に訴えなければならないわけだ。
ダイエット効果として、太っている自分の写真を壁に貼って毎日眺め、
自己嫌悪を誘発して食の誘惑に打ち勝つ、という話を小耳に挟む。
これでは脳の感情面を担当する作業員の同情は買えるかもしれないが、
前述の通り、我が敵は脳の生存本能。
重大欲望部門に勤務している作業員達なのだ。
恐らく3名と思われる。すなわち、食欲、性欲、睡眠欲、
の三大欲望に各々従事するエキスパート達だ。
睡眠不足の人が眠りにつく時、おおむね爆睡となる。
同じ様に、中途半端なプチダイエットをすれば、
反動で、減量を始める前よりはるかに多い量
を詰め込んでしまう。ボクがそうだ。
昨日、おとといと、絶食を思い立つ前より食事の量が増えた。
バカモン!。
とにかく今日は秘策を実行してみる。ノートに次なる文言を繰り返し書くのだ。
“7日間だけ何も食べない。するとボクは健康になる ”
これを何回か書いたら、次に、
“ 絶食 ” “ 健康” と繰り返し書く。
書いている時には完全に邪念を取り払い、
文言の、文字の意味だけを反芻しながら集中して
“ 気 ” を脳ミソに送り続けるのだ。
ボクは大学ノート5枚にも及ぶスローガンをリピート。時間にして98分。
右手が腱鞘炎(けんしょうえん)になるのではと
不安になるほど指に力が入っていたようだ。
ああ、これだけ集中して英単語書き抜けばナーと、
うしろめたさ感じつつ席を立つ。
ボクは何をして時間を潰したのか全く記憶にないのだが、刻はいつしか夜。
「ゴハンよー」と台所から母の声。
ボクは、ゆらありと自室を出、母と弟座す食卓へ。
「手は洗った?」と母。
ボクは、ゆっくりと食卓上の焼き上げ豆腐に目を落とす…。
好きでも嫌いでもないオカズ…。
だが、昼食抜きだから空腹ではあるハズ。
しかし、さほど食欲を感じない。思わずボクの口から飛び出る言葉、
「いい…。いらない。食べない。絶食するから」
言い放つや、ボクはキビスを返して自室に戻り、
灯が消えたままの部屋床にゴロンと身を横たえると、
大きく溜息。そして、呟く。
始まった…。